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ブラジル日系社会=『百年の水流』(再改定版)=外山脩=(346)

2026年2月24日


  「アサイ紡績工場……あのプロジェクトは、小川さんが、事前にほかの役員に諮らず、土曜から日曜にかけて、独断で進めた部分もある」(一九九三年四月談)

 開銀の融資二、〇〇〇万㌦相当分は、遅れながら、少しずつ何回かに分けて出た。小川は、それに釣られて前に進んでしまったのである。

 前に進みながら繋ぎのつもりでホット・マネーを借りて、資金繰りをした。

 そういうことを繰り返している内に、借入額がドンドン大きくなり、利子も──物価凍結令が出て安いときもあったけれど──結果としては、暴騰、狂騰してしまった。

 といって、建設を中止すれば、中途半端な工場と大きな借金が残り、契約違反の賠償もしなければならない……。

 概ね、こんなところであったわけだ。

 しかしながら…である。こういう具合にウマイ話に乗せられて、事業のスタートを切り、騙されるのは、始めてではなかったのである。

 すでに記した様にサンゴタルド、パラカツで、二回も経験ずみであり、しかも、この時期、第二次プロデセールでも、同じことが起きていた。

 しかるに、サンゴタルドの時以来、組合の幹部役員であった小川が、こういうヘマを繰り返したということは、考えられない話ではある。

 しかし、ほかの役員たちまでも、これを見逃してしまったのは何故だろう? これは一つには、小川のする事に干渉するのは難しかったためであろう。

 小川は、年齢はひと回り以上年長(七十歳)であり、役員経験も二十年近いヴェテランであった。

 それと、一九八一年のケイロウ専務の解任以来、財務を含め経営の要所、要所の実権をすべて握っていた。 

 さらに八七年三月のケイロウ返り咲き運動をした松原が潰されたことで、井上─小川ラインに逆らうと危ない、という空気が生まれていた。

 放漫な財務管理に反対した経理担当の局長(非日系)が、閑職へ飛ばされるという異常事も起きていた。

 地方から時々サンパウロへ出てくる(執行理事を兼ねない非常勤の)運営審議役二人が、別々の機会に、小川に組合の借金の残高を訊いて、

 「そんなことは言う必要はない!」

 とか、

 「つまらんことを訊くな!」

 と、どやしつけられたこともある。小僧扱いであった。

 小川は、運営審議会の席上、財務報告書を提出しており、それを見れば判る、と言おうとしたのかもしれない。

 が、その報告書というのが、月々の表面的な動きを、簡単に記してあるだけだったという。

 右の審議役の一人は、こう語る。

 「小川さんの財務報告は、簡単すぎた。例えば、組合員に対する債権の数字はあっても、その中に占める返済の焦げ付き額は、明示されていなかった」

 実は、この焦げつきが大変な額になっていた。が、それを小川は明らかにしなかった。

 こういう具合だから、紡績工場建設に関する財務に関しても、小川から彼らへ詳細な経過報告があったわけではない。

 では、常勤の執行理事は、どうしていたのであろうか?

 理事会では、アサイ紡績工場に関しては、実は担当理事以外は、他人ごと視していた。

 「自分の担当分野のことで頭が一杯で……」という。

 紡績工場の担当は、北パラナ出身の福島尊文(二世)であった。パラナ州開銀の融資の話も、最初、この人が持ってきた。

 それと、工場建設に関しては、組合内部で、

 「組合の金は一切使用しない。全て外部資金を導入して設備し、経営する。返済は完成した紡績工場が上げる利益で行う」

 と、予め確認してあった。だから、他の理事は皆、

 「これは小川さんや福島理事、担当の局が一切外部の資金を使ってやっており、自分たちには関係がない」

 と、任せっ放しにしていたのである。

 しかし少なくとも会長のゼルヴァジオは、詳細を知っていた筈である。

 筆者は(会長辞任後、相談役時代の)ゼルヴァジオを自宅に訪ね、このプロジェクトについて聞いたことがある。が、

 「(ホット・マネーの借り入れについては)後で、文書で(小川から)報告を受けた」

 「利子は(何度かの物価凍結で)安い時もあった」

 「(プロジェクトの失敗については)結果論だ」

 という短い言葉を、口にしただけであった。

 筆者は、小川からも話を聞きたいと思い、その斡旋をゼルヴァジオに依頼した。(小川も、この時点では相談役に退き、組合には出勤していなかった)

 ゼルヴァジオは、その場では応諾しなかったが、後で小川に電話をしてくれた。

 すると、小川はゼルヴァジオの家にとんで来て、両手を握り締め、両肩を首に寄せ、身体をガチガチにさせて、

 「絶対、その記者に、私の住所も電話番号も教えてくれるナ」 

 と、興奮しながら頼んだという。(つづく)


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