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太平洋を手漕ぎボートで越えて帰る=あの岩崎圭一さんの挑戦にエールを

2026年3月25日

グアタパラの会館でショーをする岩﨑さん(右)
グアタパラの会館でショーをする岩﨑さん(右)

 どんな強い郷愁に襲われた移民でも、人力だけで地球の反対側から日本まで帰ったものはいない。だが、実際に自転車と手漕ぎボートだけで、世界を一周して日本を目指している男がいる。群馬県出身の冒険家、岩崎圭一さん(50

 2002年、所持金160円を手に日本を離れ、徒歩や自転車、そして手漕ぎボートといった「人力」だけで世界を巡ってきた。以来25年、日本の土を踏んでいない。

 その旅がいま、静かに終章へ向かっている。挑むのは、米西海岸から日本までの太平洋単独横断。エンジンも帆も使わず、自らの腕だけ、手漕ぎボートで海を漕ぎ切る計画だ。荒波や孤独と向き合う過酷な航海になる。それでも岩崎さんは、あくまで淡々と語る。「ただ、自分の力で帰りたいんです」と。

 これまでの道のりもまた、常識の外側にあった。海抜ゼロからのエベレスト登頂、大西洋の手漕ぎ横断。いずれも華々しい記録だが、本人にとっては通過点にすぎない。旅の本質は、むしろその途中にある出会いにあったという。アジアや中東、欧州、南米、どこの国でも身体一つで場に入り、人と向き合う。その姿勢に、多くの人が心を動かされた。地球上、遠く離れても、どこかで日本とつながっているという感覚。その延長線上に、彼の「帰る旅」がある。

 ブラジルでも、彼の足跡は小さくない。サンパウロでは日系社会の行事に参加し、マジックショーで観客を沸かせた。熟年クラブ連合会の集まりでは、高齢者たちが目を輝かせ、拍手を送った。グアタパラ移住地の会館にも足を運び、ポルトガル語が分からなくても言葉を交わし、笑いを共有した。特別な舞台装置があるわけではない。

 グァタパラ農事文化体育協会高木ウイルソン会長も、「岩崎さんはマジックショーを見せるために、わざわざブラジルまで足を運び、会館まで来てくれた。彼の夢を実現するために、いくらでもいいので協力しましょう」と呼びかけている。

 いま岩崎さんは、最終航海に向けてネット募金クラウドファンディング(https://camp-fire.jp/projects/923587/view)で支援を募っている。船の改造や装備、安全対策には相応の費用がかかる。だがそれ以上に、この挑戦は多くの人の思いに支えられて初めて成立する。

 岩崎さんは、本紙に「皆さん、ご無沙汰しております。旅の最終地点アメリカまで、あと500キロのところに来ました。ブラジルがとても懐かしいです。できましたら、太平洋手漕ぎ横断へのご協力をお願いします」とのメッセージを寄せた。

 四半世紀ぶりの帰国は、単なる到着ではない。時間と距離を越え、人が自らの足で地球を一周して「戻る」という冒険だ。便利さが行き渡った時代にあって、あえて不便を選び、自分の力だけで海を渡ろうとする。その姿は、どこか私たちが忘れかけている感覚を呼び起こす。

 太平洋は広い。しかし、その広さに正面から向き合い、越えようとする人がいる。その事実に、どれだけの重みがあるだろうか。

 遠く離れた場所からでも、手を差し伸べることはできる。岩崎さんの帰路に、静かな追い風を送る人が一人でも増えることを願わざるを得ない



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