小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=96
私は神を信じていない。父もそうだ。母は信仰に篤い。どこそこの祈祷師がいいと聞けばでかけた。神様が人間ほど短気なら、気の多い母の鞍替え信仰を罰するだろうが、どの神も母を罰することをしないなどと言い、父は、母の迷い心を窘めることもなかった。新しい宗教に入る度に何日か気分がいいとも言っていたから、母には医師と同じく神も大切な存在だったに違いない。
手術の前、母は再三、大丈夫だろうかと医師に念を押し、医師は神様でないから何とも言えないが、わしの診るところでは大丈夫です、と言った。母は、全く大丈夫と言ってもらいたかったのだろう。少し淋しい表情になったが、直ぐに、
「き...
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