サンタクルス日本病院=司法再生申請を裁判所が承認=全債権取り立てを一時停止=保護処置中に再建計画へ

7日付@sampi_noticiasサイトによれば、日系社会によって設立され、86年間にわたり継続的に医療サービスを提供してきたサンパウロの伝統的医療機関、サンタクルス日本病院(HJSC、二宮正人理事長)は4月に、司法再生手続き(pedido de recuperação judicial)を裁判所に申し立てていたが、それがこの度承認され、ブラジル司法当局は病院の財務および資産保全のための仮保全措置を認可した。
4月14日付Valorにも同病院からの司法再生手続きの要請が行われた旨が掲載されていた。「司法再生手続き」とは、日本の民事再生法や会社更生法に相当する。経営危機にある法人が裁判所の監督下で債務整理を行いながら、事業を継続しつつ再建を目指す制度だ。これにより、債権者からの差し押さえや強制執行を一時的に停止。企業(団体)が再建計画(プラン)を立て、債務の一部を免除・分割・延期などで再交渉する。雇用や社会的機能を維持しながら、倒産(falência)を回避する制度。「破産」とは異なり、事業を継続しながら再建することが目的だ。
同病院の司法再生を承認する決定を下したのは、サンパウロ州首都圏・第2倒産・再生裁判所のパウロ・デ・オリヴェイラ・フルタード・フィーリョ判事で、裁定は5月7日付けの官報で公表された。
判事は判決文の中で「現行の再生・倒産法(法律第11・101/05)は時代遅れであり、サンタクルス日本病院のような協会や財団に適切な法的枠組みを提供していない」と指摘。こうした非営利団体も民間企業と同様に社会的に重要な役割を果たしながら、法的保護は十分でなく、その資産や事業継続が危機にさらされる可能性があると述べた。
「司法の役割は、債務者が危機を乗り越え、事業と雇用、そして債権者への支払い資源を確保できるよう、適切な手段を提供することである」と同判事は強調している。
今回の裁定により、同病院に対する全ての強制執行(債権者による訴訟を含む)が一時停止される。これは個人債権者も含め、再生手続きまたは破産手続きの対象となる債務・債権に関連するもの全てが該当する。加えて差し押さえ、仮差押え、財産の拘束、捜索・押収、その他一切の司法・非司法的な強制措置も禁止された。
HJSCは再生申請書の中で、約1億レアル(約30億円)の負債を抱えていると概算している。正確な負債総額は、4月9日の申請日を基準とする「特別貸借対照表」により今月中に算出・提出される予定だ。
法的代理人を務めるのはサンパウロ市に拠点を置く「ジェレミアス・アルヴェス・ペレイラ・フィーリョ法律事務所」。(出典https://sampi.net.br/nacional/noticias/2901692/brasil-e-mundo/2025/05/justica-aceita-pedido-de-recuperacao-judicial-do-hospital-s-cruz)

司法再生手続きとは何か=債務再編して事業継続を図る
ブラジルの「recuperação judicial(司法再生手続き)」は、日本の「民事再生」や米国の「チャプター11(Chapter 11)」に相当。経営難にある企業が破産を回避し、債務を再編して事業継続を図るための法的手続きだ。債務返済の猶予と交渉の場を確保する制度で、企業の継続性を最優先にしつつ、債権者の権利も守るバランス型制度と言われる。
ブラジルでは2005年に施行された「破産・司法再生法(Lei de Falências e Recuperação Judicial, Lei nº 11.101/2005)」に基づいて運用される。以下は、司法再生の一般的な流れ。
(1)申請(Pedido de Recuperação Judicial)
経営に行き詰まった企業(債務者)が裁判所に対して司法再生の申し立てを行う。申請には会社の財務諸表、資産一覧、負債一覧、従業員リストなどが必要。条件としては過去2年間継続的に事業活動をしていること、過去5年以内に再生・破産判決を受けていないことなど。
(2)手続き開始と保護措置(Deferimento e “Stay Period”)
裁判所が前述の要件を満たしていると判断すれば、手続き開始を許可。ここで180日間の「保護期間(stay period)」が始まり、その間、債権者は強制執行や資産差し押さえなどを行えなくなる。同時に、裁判所が司法監督人(administrador judicial)を指名する。サンタクルス日本病院は現在、この段階。
(3)再生計画の提出(Apresentação do Plano de Recuperação)
申請後60日以内に、債務者は再建計画(Plano de Recuperação Judicial)を提出。返済方法(分割、減免、株式化など)、事業再構築、雇用維持策などを明記。これにより、債権者にどのように債務が履行されるかを提示する。
(4)債権者集会と投票(Assembleia Geral de Credores)
債権者が計画を審議し、多数決(債権額に応じた加重投票)で承認を行う。債権者は以下の4グループ(労働債権者、担保付き債権者、無担保債権者、小規模・個人事業者などの優遇債権者)に分けられ、それぞれの過半数の承認が必要。
(5)計画の実行(Execução do Plano)
承認された計画に基づき、債務者は返済・事業再編などを進める。裁判所と司法監督人が監視する。
(6)終了・失敗(Encerramento ou Falência)
計画通り進めば手続きは完了し、企業は再生完了。ただし、計画が不履行となったり、悪意ある行為が発覚した場合は、破産(falência)に移行することもある。