ブラジル人が受け継ぐ日本の伝統=目立つ芸能祭で活躍するブラジル人=中心演者として光る存在に
日本文化の舞台芸術の祭典「第58回芸能祭」が6月28(土)と29日(日)にサンパウロ市のブラジル日本文化福祉協会大講堂で開催された。日伯友好130周年と文協創立70周年の節目の芸能祭となり、計117団体の約700人が、伝統芸能から現代の創作ダンスや音楽、沖縄文化に至るまで、練習を重ねた成果を晴れの舞台で披露した。
演目の中でもブラジル尺八愛好会の10人が並んで「雲井獅子」を吹くうちの9人が非日系、 正派ブラジル琴の会による「みずうみの詩」でも中心的にはブラジル人若手奏者、藤間流日本舞踊学校の「春の海」でも演者でレナン・フェルナンデス、ダニエル・アレイショ、アレダンドロ・アギアル3氏らが熟練の舞を披露するなど、ブラジル人が支える日本の伝統文化という流れを如実に感じさせる芸能祭となった。
第1回から司会を担当するベテランの藤瀬圭子さんは今年も日本語司会を担当、ポ語司会の高畑昭二さんとコンビで進めた。29日10時からの開会式で、西尾ロベルト文協会長の挨拶に続いて、加藤ロベルト孝幸芸能委員長は「普通の祭りでは見られない伝統的な芸能がここでは見られる。日本文化の継承と保存にとってこのイベントは非常に重要」と訴えた。
伊藤ケンジ市議の次に楠本留巳実行委員長は「この舞台に立つたびに、資金不足で開催が難しかった瀬戸際の時、当時、宮坂国人財団の理事長だった西尾さんに支援をお願いし、快く助けてもらったことを思い出します」と感謝を繰り返した。
その後の演目では、遠路パラー州ベレンから駆けつけた山中正二さん(87歳、岩手県)の詩吟「富士山」、河村淳さん(81歳、島根県)の書道吟が披露された。山中さんによれば、「学生時代から詩吟をやりたいと思っていたが、ようやく一昨年から始めた。初めて文協の大舞台で独吟できて嬉しい。やはり日本文化の殿堂、文協でやるのだからと演目は、日本の象徴・富士山にした。せっかくだから琴や尺八などの伴奏と一緒にできたらもっと良かった」と勢い込んで語った。
本業が広告デザインの河村さんは、舞台上で詩吟に合わせて漢詩を毛筆で一気に書き上げた。「3年前から書道を習い始めた。今回はこの舞台の装飾も任せてもらった。ふるさと日本を思い出させるように松と桜をデザインさせてもらった」と解説した。
モジ在住の来場者の竹込清子さん(98歳、岐阜県)は「娘と孫が、ヨサコイソーランで舞台に立つのを応援にきた。毎年見に来るのが楽しみ!」と元気そうな笑顔を浮かべた。
閉幕後、山下譲二文協評議員会長は、「邦楽『春の海』の舞は見事だった。非日系人の演者が春の穏やかな細波を、扇子のヒラリヒラリという動きで見事の表現していた。心が入っていないとあのような所作はできない。指導者も大したもの。ブラジルの日本の伝統文化をブラジル人が支えてくれていることを実感させるシーンだと感動した。日系人にももっと、芸事の真髄を理解する演者に出てきて欲しいと痛切に思います。そして沖縄の伝統舞踊でも、子供が指先にまできちんと気を使って舞っているのが分かった。基本を大切にする姿勢が素晴らしい」と感動を抑えきれない様子で語った。