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50%関税=経済的根拠なく政治的決断=ノーベル賞学者「誇大妄想的」

2025年7月11日

ポール・クルーグマン氏(Foto: The White House, via Wikimedia Commons)
ポール・クルーグマン氏(Foto: The White House, via Wikimedia Commons)

 トランプ米大統領がブラジル産品への輸入関税を現行の10%から50%にと大幅に引き上げる方針を示したことを受け、国際メディアは「経済的根拠に乏しく、個人的かつ政治的意図が強い」と批判。両国間の緊張激化も懸念している。また、2008年ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン氏も「悪意に満ち、誇大妄想的」と強く非難し、米国の民主主義の立場を揺るがす動きと指摘。専門家らも、貿易赤字のブラジルに対し、黒字の米国が報復関税を課すのは「異例かつ非論理的」とし、各産業への実質的影響を警告している。9日付BBCブラジル(1)やヴァロール紙など(2)(3)が報じた。
 米紙『ワシントン・ポスト』は、今回の関税措置は本来の経済的な理由によるものではなく、トランプ氏が「ボルソナロ前大統領がブラジル国内で不当な迫害を受けている」と主張していることへの対応だとして、「個人的で政治的意図が強く反映されている」と報じた。同紙は、「トランプ氏の決定は、経済的根拠よりも人間関係や政治的連帯が優先されている」と指摘。関税理由としている貿易不均衡はブラジルには当てはまらず、当初の「経済的緊急事態対応」の説明も、ボルソナロ氏の刑事訴追と密接な関係があるため、説得力を欠くと論評した。
 『ニューヨーク・タイムズ』は、新関税で米・ブラジル間貿易での緊張感が急激に高まり、両国が貿易戦争の様相を呈し始めたと報じた。特に、ブラジルにとって経済・政治両面で重大な影響が予想されるだけでなく、トランプ氏が「訴訟の停止を関税撤廃の条件としているようだ」と記述。関税を他国の刑事訴追に干渉する手段として利用しようとしている点に触れ、同氏は関税を「経済に対して破壊的な潜在力を持つ普遍的な強制手段」として扱っていると評価した。
 両紙はトランプ氏の書簡内の「米国がブラジルと貿易赤字を抱えている」という説明は事実とは異なると否定。英紙『ガーディアン』も、書簡を「感情的に高ぶったもので、通常の関税公式文書とは内容や語調が大きく異なる」と評した。
 アルゼンチン紙『エル・クラリン』は、今回の関税引き上げを「劇的な措置」と評し、「トランプ氏は政治的および経済的動機を混在させ、他のラ米諸国と比較して、ブラジルのみに著しく高い関税をかけている」と指摘した。
 こうした措置に対し、ノーベル経済学賞受賞者のクルーグマン氏は、トランプ氏の書簡を「誇大妄想的で悪意に満ちたもの」と断じ、「ブラジルがボルソナロ氏を裁こうとする正当な司法手続きに対し、米国が経済力を使って干渉する行為だ」と強く批判。さらに、「50%関税で2億人の国を屈服させようとするのは非現実的で、かつ民主主義の原則に対する攻撃だ」と指摘し、「米国が〝正義の側〟にあるという幻想は捨てるべきだ」と警鐘を鳴らした。
 一方、業界団体からはすでに具体的な影響が報告されている。米国市場に依存する製靴業界や電機・機械部門では、新規契約の凍結や出荷延期が生じており、鉄鋼産業では18年の25%関税措置以降継続いている圧力が、さらに強まるとの見方が強い。通商専門家は「関税が引き上げられたという事実そのものがブラジル経済に対する〝国際的なシグナル〟となり、他国からの投資や取引にも心理的悪影響を及ぼしかねない」と分析している。
 ブラジル国内でも、経済・外交専門家から「予測不能な政治的圧力」との批判や懸念の声が広がっている。経済シンクタンク関係者は、「制裁の撤回条件が不明確で交渉余地が読みづらい」と指摘し、政府関係者も「経済論理が通用しない相手との交渉は極めて難しい」として、水面下での市場多角化や世界貿易機構(WTO)提訴の検討も始めているという。


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