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芸術フットボールを追い求めて=沢田啓明=第12回=プレー内容素晴らしかったチリ戦

2025年9月16日

チリ戦の試合の様子(Rafael Ribeiro/CBF)
チリ戦の試合の様子(Rafael Ribeiro/CBF)

今月、2026年ワ-ルドカップ(W杯)南米予選最後の2節が行なわれ、セレソン(ブラジル代表)はホームでチリに3-0で快勝したが、アウェーでボリビアに0-1で敗れた。

南米予選の順位は、チリ戦を終えた時点で2位へ上昇したが、最終的には3位と同勝ち点ながら得失点差で5位となった。

今年6月の時点ですでにW杯出場を決めていたとはいえ、もしこれまでの大会のように南米からの出場枠が4・5であれば、大陸間プレーオフへ回っていた。フットボール王国ブラジルにとっては、何とも居心地が悪い最終順位となった。

チリ戦のプレー内容は、素晴らしかった。

高い位置からの連動したプレスで、チリの攻撃を無力化。素早いパス回しとスピードに乗ったドリブルで危険な攻撃を仕掛けた。

前半、MFラフィーニャ(バルセロナ)が左サイドを突破してシュートを放ち、GKが弾いてボールが高く上がったところを18歳の右ウイング、エステヴァン(チェルシー)が見事なバイシクル・キックで叩き込んだ。彼にとって、セレソンでの初得点だった。

そして、後半はルイス・エンリケが圧巻だった。スピードとパワーに溢れたドリブルでチリ守備陣を翻弄。左サイドを突破してクロスを入れ、MFルーカス・パケタ(ウェストハム)が頭で決めた。

パケタは、天才的なテクニックと閃きを持つMFだ。しかし、スポーツ賭博への関与を疑われ、一時はフットボールの世界から永久追放されそうになっていた(プレミア・リーグの試合で「故意にイエローカードをもらって知人に儲けさせた」という容疑でイングランド・サッカー協会から告発された。以来、プレーどころではなかったが、7月末、証拠不十分で告発が取り下げられた。セレソンへ復帰してすぐに得点をあげ、感極まった表情を浮かべた。

さらに、ルイス・エンリケが今度は右サイドを突破し、自らシュート。GKが弾いたところをボランチのブルーノ・ギマランエス(ニューキャッスル)が押し込んだ。ギマランエスは攻守に貢献する選手で、チームの主力の一人となっている。

ボリビア戦は、標高4150mというとてつもない高地の町エル・アルト(スペイン語で「高い場所」を意味する)で行なわれた。

酸素が少ないため、選手はダッシュを繰り返すと呼吸困難に陥る。しかも、ボールが大きく弾み、なおかつ伸びる。零下前後の気温も難敵だ(注:筆者は標高3637mのラパスを訪れたことがあるが、ゆっくり歩いていても呼吸が苦しくなる。ホテルには酸素吸入器が常備されていた)。

セレソンのカルロ・アンチェロッティ監督は、高地対策としてフィジカル能力が高い若手中心のチームを組んだ。それでも選手の動きは鈍く、すぐに倒れ、しかもすぐには起き上がれない。一方、平地ではスピードもパワーも平凡なボリビア選手が、高地ではフィジカル・モンスターへ変身する。セレソンは、得点はおろか一度の決定機も作れず、0-1で敗れた。

とはいえ、このような異常な状況での試合はボリビア以外では起こらない。この敗戦は気にする必要はないだろう。

今年5月末にセレソンの監督に就任したカルロ・アンチェロッティは、欧州5大リーグ(イングランド、スペイン、ドイツ、フランス、イタリア)ですべて優勝しており、欧州チャンピオンズ・リーグを5度制覇している名将中の名将だ。自らが信奉する戦術を選手に押し付けるのではなく、選手の特徴に最も適した戦術を選んでチームに植え付けるる。温厚な人柄で、マネージメント能力も優れている。

選手の能力と特性を見抜くのもうまい。レアル・マドリー監督時代に指導したボランチのカゼミーロ(現マンチェスター・ユナイテッド)を代表へ呼び戻し、レギュラーとして起用。彼は堅実な守備で貢献する一方、リーダーの一人としてチームの根幹を支えている。

守備陣では、高い能力を持ちながらこれまでセレソンでの出場機会が少なかったCBガブリエル・マガリャンエス(アーセナル)をレギュラーとして起用。攻撃陣では、エステヴァン、ルイス・エンリケら若手を抜擢し、主力のラフィーニャらと組ませて力を発揮させている。

セレソンにとって長く苦しかった南米予選が終わった。来月には極東へ遠征し、韓国、日本と強化試合を行なう。

日本は2026年W杯アジア予選を難なく突破したが、今月のアメリカ遠征では苦戦した。現時点のベストメンバーで臨んだメキシコ戦は互角以上の内容で引き分けたが、先発メンバーを全員入れ替えたアメリカ戦では攻守両面で圧倒され、0-2で完敗した。

過去、日本はセレソンと対戦して2分11敗。一度も勝っていない。

セレソンは今年3月まで不調のどん底で、もしこの頃に対戦していたら日本が勝てたかもしれない。しかし、その後、セレソンは名将の手腕によって息を吹き返した。

ともあれ、日本にとってブラジル戦は絶好の腕試しとなる。W杯本番のつもりでベストを尽くし、ぜひとも初勝利を挙げてもらいたい。

一方、セレソンも絶対に負けるわけにはいかない。この試合が今から楽しみだ。


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