新型HPEスパコン導入=気象予測や産業分野で躍進

ブラジルの気象予測が大きく変わる。24年に2億レアル(約57億円)を投じて導入された、従来の6倍の処理速度を誇る新型スーパーコンピューターにより、地域ごとの降雨や災害発生のタイミングをこれまでにない正確さで予測可能となった。単なる天気予報の枠を超え、農業、エネルギー、医療といった重要産業の意思決定をも支える強力なツールとして期待されている。今年12月の本格稼働を控え、気象監視体制はかつてない高度化を遂げつつあると5日付G1(1)が報じた。
ブラジルは10年から運用されてきたスーパーコンピューター「トゥパン」に依存してきた。だが同機は老朽化が進み、国立宇宙研究所(Inpe)は21年から資金不足による気象監視の空白リスクを警告していた。新スパコンはこの問題を解決すべく、サンパウロ州カショエイラ・パウリスタにある気象観測センター(Cptec)で試験運用が続けられている。
新スパコンは入札プロセスを勝ち取った米国のHPE-Cray社製(Hewett Packard Enterpriseの子会社)だ。同社が納入した「El Capitan」は昨年、世界最速のスパコンとして話題になった。(2)
新スパコンは24時間365日稼働し、衛星、商業機、船舶、気象観測所、観測気球など多様な情報源から膨大なデータを収集。この情報を1秒間に数兆回も計算して解析することで、これまで3時間かかっていた予報分析が数分で完了する。加えて、記憶容量は旧機の24倍に拡大し、より精緻な気象モデルの構築を実現している。
気象予測の解像度も向上し、従来は7キロ平米単位での情報提供だったが、新システムでは3キロ平米、さらに都市部では1キロ平米単位での詳細予測が可能となった。例えば特定の地区や通り単位で降雨の有無や時間を示すことができる。23年に発生したサンパウロ州沿岸部サンセバスチアン市のような大規模災害において、より的確な事前警戒が期待される。
23年2月、同市で発生した記録的な豪雨により大規模な土砂災害が発生し、少なくとも56人が死亡、数百人が家を失った。特にヴィラ・ド・サイ地区では48時間前に全国自然災害監視警報センター(Cemaden)から高リスク警告が出されていたが、地域の地形や降雨の局所性が予測の精度を低下させ、迅速な避難や対応が難航していた。
Inpeのデータインフラおよびスーパーコンピューティング技術担当コーディネーター、イヴァン・マルシオ・バルボーザ氏は、技術的な準備は整っていたものの、装置投資が長らく不足していたとし、「旧型機は社会の要求に応えきれなくなっていた。我々は十分なデータと研究能力を有していたが、それを活用できる装置が欠如していた」と指摘した。
新システムは単なる短期予報にとどまらず、3カ月先までの季節予報の精度向上にも寄与。農業分野では作付けの最適化や干ばつの早期察知に活用され、同分野が国内総生産(GDP)の約23%を占めることから、その影響は計り知れない。
エネルギー部門では、水力および火力発電の運用管理に役立ち、貯水池の状況や降雨量の事前予測により、電力コストの最適化が図られる見込みだ。公衆衛生分野では、国内外の森林火災による煙の動きを監視し、被害地域の事前警戒に貢献する。
運用には高度なインフラが必要であり、同コンピューターは国内最大級のデータセンター内に設置された。水と電力の消費が非常に大きく、年間維持費は約600万レアル(約1億7千万円)に上る。そのため、科学技術イノベーション省と研究金融機関(Finep)の支援で、26年からは太陽光発電による電力供給体制も整備される予定だ。
Inpeは南米初のスパコン導入機関であり、新システムによる技術的飛躍は、気象予測のみならず人工知能を活用した気候変動予測といった次世代プロジェクトの推進にもつながると期待を寄せている。