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ルーラ再戦キットのリスク=27年に控える〝時限爆弾〟

2025年10月7日

万華鏡2
7月、取材に応じたルーラ大統領。「再選キット」による支出のツケは2027年に表面化する見通し。(Foto: Ricardo Stuckert / PR)

ルーラ大統領(労働者党・PT)が26年再選を視野に入れて打ち出す一連の経済政策群「再選キット」は短期的に支持を集めるものの、将来的な財政の持続可能性に深刻な懸念をもたらしている。公的債務は今年末には国内総生産(GDP)の約84%に達する見通し。27年に政権を引き継ぐ次の大統領は最大級の歳出削減を断行するか、公共支出を抑制するためのルールである財政均衡法(新財政枠組み、アルカボウソ)を放棄するかという厳しい二者択一を迫られることになり、経済の「強制着陸」を招く可能性が高いと経済専門家が警鐘を鳴らしていると5日付ガゼッタ・ド・ポーヴォ(1)が報じた。

現在の政策パッケージは、社会保障プログラムの拡充や税制見直しを含み、低所得層および中間層の支援を強化することを目的としている。だがこれらの措置は、短期的な人気取りには寄与するものの、長期的な財政健全化の視点からは持続不可能な財政リスクを抱えているという指摘が多い。

ブラジルの公的債務は22年12月のGDP比71・7%から、25年7月には77・5%へと急速に増加し、連邦上院の公共財政監視機関である独立財政機関(IFI)は、26年末には82・4%に達すると予測。金融市場の中央値予測ではさらに高く約84%に達する見込みだ。

こうした債務増加の背後には、歳出の硬直化という構造的な問題がある。連邦政府の歳出のうち9割以上が義務的支出で、その大部分は最低賃金や人口構成の変化に連動して自動的に増加するため、財政支出の柔軟な調整が困難な状況だ。

このため政府は財政支出の抑制ではなく、問題の先送りを選択している。例えば、25年9月に制定された「裁判所命令による政府支払い債務(プレカトリオ)に関する憲法補則法案66号(PEC66/23)」が挙げられる。同法では、司法が確定させたプレカトリオを財政支出の上限から除外するとともに、これらに適用される利率も、経済基本金利(Selic)の年率15%から、広範囲消費者物価指数(IPCA)に2%を加えた水準へと大幅に引き下げた。

さらに26年度のプライマリーバランス(基礎的財政収支)目標においても、これらの支出は除外され、27年以降10%ずつ段階的に再計上される仕組みだ。この措置は、政府が支出を抑制しているように見せかけつつ、実質的には将来世代に負担を繰り延べるもので、投資家からは「信頼を損なう先送り策」との批判が出ている。

財政政策の拡大は金融政策との対立を深めている。

ジェトゥリオ・ヴァルガス財団ブラジル経済研究所(Ibre/FGV)の経済学者サムエル・ペソア氏は、26年の実質公的支出の伸びを3%と推計し、選挙期間中の積極的な経済刺激策の一環だと分析。

一方、中銀は高止まりするインフレを抑制するために高金利を維持しており、「アクセルとブレーキを同時に踏む車の運転」に例えられる矛盾した政策運営が続く。この結果、ブラジルの実質金利(インフレ調整後)は年率約9・5%に達し、トルコに次いで世界で2番目に高い水準となっている。

FGVのシルヴィア・マトス氏は、26年初頭に起こる「人工的な景気加熱」に警鐘を鳴らす。例年、最低賃金や年金の改定が1月に実施されるが、今回は「再選キット」の効果が重なり、追加インフレ圧力が生じる可能性がある。

ルーラ第3期政権は、従来の選挙サイクル(最初の2年は支出を控えて選挙前年から積極財政)とは異なり、任期開始直後から積極的な財政出動に踏み切った。その中で「再選キット」は、所得税の非課税枠拡大やボルサ・ファミリア(生活扶助)の拡充など約2519億レアルの財政刺激を盛り込んでいる。

1日付CNNブラジル(2)によれば、連邦議会予算委員会は30日に選挙基金を39億レアル増額するための規則を承認した。26年選挙に向けた選挙基金は、当初の政府予算10億レアルから49億レアルへと拡大した。つまり政府だけでなく連邦議会も支出を増やす情勢にある。

マプフレ・インベスチメントスの経済専門家は、選挙年の慣例から中期的な構造改革は進まないと予測。ブラジル経済は高水準の債務と経済成長の停滞という最悪の組み合わせに直面しており、裁量支出(政府が政策判断で増減可能な支出)の削減余地がさらに狭まる中、財政の不透明感は増す一方だという。

このまま改革が進まなければ、30年までに財政ルールが実効性を失う恐れも指摘されている。26年予算の分析では、各省庁への配分金額ではなく、巨額の債務負担と選挙圧力に挟まれつつも、社会政策を維持しようとする政権の姿勢に焦点が当てられている。

経済の長期的な展望は厳しい。高金利の継続により投資は縮小し、公共支出に支えられた消費の人工的な維持も限界を迎えると予測される。

そうした中、27年以降の政権は避けがたい財政調整に直面し、大規模な社会保障削減か、財政ルールの抜本的見直し、または放棄のいずれかを選択する必要がある。これが避けられなければ、信用危機やインフレの悪循環という〝時限爆弾〟に直面するリスクが高いと専門家は警告している。


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