ぶらじる俳壇=166=広瀬芳山撰
イタケーラ 西森ゆりえ
百年を祝う宴や夏の風
〔百年を祝う祝宴と夏の風の取り合わせが、とても強く響き合ってます。百年の歴史と共にこれから更に発展する気配が、夏の風に込められています。とても大きな句になりました。〕
師の恙祈る心の納め句座
若き娘のヘビの入れ墨夏衣
リベイロン・ピーレス 西川あけみ
袋掛けて村一面白くなり
〔果樹栽培で栄えている農村で多く見られる風景ですが、それでも村一面に白くという表現が秀逸です。そして村に生きている人が作れる俳句といえましょう。〕
夏草や国の文字彫る移民墓碑
我父母は幼な移民よ夏の草
サンパウロ 児玉和代
この人と一期一会の年の暮
〔全体にさわやかさと深い人のきずなの句となりました。一期一会と年の暮の取り合わせが深く人の心に残ります。〕
年惜しむことも忘れて日々の過ぐ
畦の灯の幼なにあやしき火取虫
グァタパラ 田中独行
やっと生る蜜柑の若木露太し
〔普段から農作業に親しんでいる人ならではの視点で植物の成長を描写しました。露太しがこれからの若木の成長を暗示しています。〕
にらめっこ鰐かトカゲか池のほり
夏野道訪う人も無き村外れ
サンパウロ 大野宏江
墓参り返事する母「ようこそ」と
〔生前からの親子の仲の良さがうかがえる句です。普段忘れがちな母の墓参りをして墓の前に立った時、「ようこそ」という言葉で万感の意が感じられます。〕
帰宅して金魚に聞くや留守の事
バナナ盛りたたき売られて客を待つ
コチア 森川玲子
淑気充つガスの炎の濃むらさき
〔灯は古代より時には神聖なものでした。ガスのあの何とも言えない青い灯に、お正月に感じる神聖な思いが淑気と感じられた得難い一瞬を詠みました。〕
プレギッサ現はる農道雲の峰
髪を切り補聴器なでる若葉風
旅先の聖堂に寄る日の盛り
マナウス 宿利嵐舟
夏の雨降りて上がりていさぎよし
〔まさに夏の雨という描写です。ざーとすごい勢いで降り注いで、かと思えばあっという間に大雨が止み、残されたのは少し涼しくなった大気のみ。決して飾らず素直に描写した句となりました。〕
船影を大河にぼかす夏の雨
大夕焼け異国に老いて悔いはなし
マナウス 橋本美代子
椰子屋根の音忍びやか夏の雨
〔この句は前句と違い、夏の雨の一面を伝えています。そして、椰子屋根という自然のものがいかに優しく雨を受け止めているかとよく伝えています。〕
舗道まで花影あふれ日々草
今やむかしレコードCD音楽の日
サンパウロ 西谷律子
手に掬う水の匂いや朝曇り
〔朝曇りという微妙な時間帯に感じる細やかな感触を水の匂いという表現で表しました。〕
大試験終えてあふるる人の波
教会の軒借る母子年の暮
リベイロン・ピーレス 山城みどり
父を訪う好みのアイスお土産に
〔父の好みのアイスを知っていてそれを手土産にするという親娘の間柄がよくわかる句となりました。全体に気遣いと優しさ、うれしさがあふれる句となりました。〕
新聞紙で顔おおってする昼寝ぐせ
紫陽や変化せぬまま枯れにけり
サンパウロ 山本郁香
大筆の墨の香りや年の暮
〔年末に行われる筆納めの行事に、普段使わぬ大筆にたっぷりとふくませた墨の香りが新鮮です。集まった人々のざわめきも聞こえます。〕
手をあげているよとあいさつ初夏の駅
白桃のしたたり落つる指の蜜
サンパウロ 吉田しのぶ
枕辺に通夜の灯明け易し
〔明け易しとは、夏の夜が明け易い様をいう季語。昨夜からのお通夜の灯がだんだん薄れていく故人との思い出が沢山あり、さぞかし短い夜になったことでしょう。〕
亡き夫が始祖となりたる展墓の日
店番の客も途絶える日の盛り
マナウス 渋谷雅
夏の雨空半分に陽が見える
〔大きな空と大地があるアマゾン、そこに降る雨も空全部を覆いきれず半分は陽が見えるという、しっかりした写実の句となりました。〕
夜半に聞くカエルの合唱音楽の日
カサは無し店先混んで夏の雨
マナウス 丸岡すみ子
音楽の日推しのCD捨てられず
〔自分の若い日の思い出もつまったCD。聞かなくなって久しいが、でもやっぱり捨てられない。そんな複雑な感傷をさらっと表現しました。〕
日日草晴れでも雨でも咲く笑顔
街の熱わずかに冷ます夏の雨
マナウス 内ヶ崎留知亜
懐かしき歌口ずさむ音楽の日
〔人はそれぞれの懐かしい歌を持っています。その歌を音楽の日という時に合わせて思い出し歌う、そんな素直な句になりました。〕
明け方の静寂破る夏の雨
一年中見目好いかな日日草
サンパウロ 伊藤きみ子
日盛りを人影もなくアーケード
〔何も構えずしっかりと夏の風景を詠みました。この描写により、夏の暑い盛りがしっかりと読者に伝わると思います。〕
うっそうと葉擦れの音も登山道
緑濃き山並み遠く夏の山
サンパウロ 比嘉茂子
耳鳴りも生きてる証拠空は秋
〔生活に障りのある耳鳴りも少しひらきなおれば生きている証だという作者。空が秋という描写がとても効いています。高く青い空が、小さなことは気にするなと話しかけているようです。〕
音たててラーメン食うのが日本流
婦人会ヤキソバ旨し九月祭
ジャカレイ 三好信子
墓参り拝む我にも花の舞
花マモン大家族のごとぶらさがり
年の暮風鈴の俳句書き変えて
サンパウロ 久保一光
夏草や啼く鳥隠す光り留め
大の字に荷車使ふ昼寝かな
今年また十一月を生きている
サンパウロ 蔵所和弘
朝市の黄色いバナナ台に咲く
麦わらの子等にせみ鳴く夏の山
日盛りの水分補給いのち水
サンパウロ 平井恵子
山登り夏の山小屋雲の上
花添えて過ぎし思い出墓参り
今想う父母の教えや墓参る
サンパウロ 梅津朝代
短夜の月に照らされ星流る
親想う家族はひとつ墓参る
サンパウロ 皆藤百代
振り向けば遠くになった夏の山
叱られし父母懐かしき墓参る
サンパウロ 松田とし子
悩み事聞くわが友は金魚かな
日盛りや一口の水生き返る
サンパウロ 中原イベッテ
日盛りを今日も働く労働者
労働の疲れ金魚にいやされて
マナウス 野沢須賀子
ドシャ降りも一瞬にして止む夏の雨
故郷の歌思い出す音楽の日
音楽の日文協コーラス日本の歌
マナウス 森浩美
夏の雨一人軒下待つ迎え
大空に響くや祈り音楽の日
兼用の傘の出番や夏の雨
マナウス 錦戸みどり
小石の間日日草や花咲かす
種ごとのマラクジャジュースカリカリと
屋外で子供が燥ぐ夏の雨
マナウス 松田正一
炎天下俄に化身夏の雨
極暑の大気冷やして夏の雨
朝空のひと雨欲しい夏の雨
マナウス 鎌田ローザ
日々草や庭一面に咲きほこり
音楽の日インディオ楽器心地よさ
夏の雨ずぶ濡れ裸足遊ぶ子等
マナウス 相澤寛明
夏雨や野良仕事休み孫の世話
夏雨や開墾休みて鍬磨き
音楽の日今日も変わらずサンバ鳴る
マナウス 宮川雄一
マラクジャー父の手握る畑道
夏の雨遠里響くトタン屋根
体浮き日々草や穴の道









