site.title

《記者コラム》選挙キャンペーン最前線の裏側=実は圧倒的なアラブ系人脈=大浦智子

2022年7月23日

サンパウロ州知事選を巡る左派のかけひき

7月20日、フランサ氏から政策プランがハダジ氏に渡された会場。左からフランサ夫人、マルシオ・フランサ氏、フェルナンド・ハダジ氏、ハダジ夫人
7月20日、フランサ氏から政策プランがハダジ氏に渡された会場。左からフランサ夫人、マルシオ・フランサ氏、フェルナンド・ハダジ氏、ハダジ夫人

 今年10月2日に実施されるブラジルの大統領、下院議員、上院議員、全27州知事、各州の州議会議員を選出する選挙に向け、各党、各候補ともあの手この手で投票日までのコマを進めている。
 以前、記事で紹介したことがある、ブラジルに帰化したシリア人難民のアブドゥルバセット・ジャロール氏(32)がブラジル社会党(PSB)からサンパウロ州議員の立候補予定者となった縁から、記者は今年3月から彼の選挙準備の補助員の一人として、PSBを中心とした選挙運動に同行してきた。その中で見聞き、体験したブラジルならではの興味深かったエピソードを不定期にお伝えしたい。
                      ☆
 7月20日、ブラジル国民にとって「選挙はゲーム」と揶揄される選挙戦略を垣間見る出来事があった。聖市メトロ・レプブリカ駅に近いラルゴ・アロウシェ広場にあるホテル・サンラファエルでのことだった。
 ともにサンパウロ州知事に立候補予定だった労働者党(PT)のフェルナンド・ハダジ元サンパウロ市長(59)と、ブラジル社会党(PSB)のマルシオ・フランサ元サンパウロ州知事(59)の手打ち式が行われた。
 周知の通り、両党はともにブラジルの左派に分類される政党である。同じ左派候補であることから、フランサ氏が知事選を辞退して上院議員に立候補することで、世論調査でより優勢のハダジ氏がさらに有利になるように当選に向けて協力する事が公式に発表されたのだ。
 この日、フランサ氏の知事就任に向けて立案されてきた政策プランがハダジ氏に手渡され、ブラジルの有力メディアもこぞって取材に駆けつけていた。

「昨日の敵は明日の味方」という日常

フランサ氏から政策プランが渡されたことについて記者会見を受けるハダジ氏
フランサ氏から政策プランが渡されたことについて記者会見を受けるハダジ氏

 今年4月には、ジェラウド・アルキミン氏(69)が30年以上所属した古巣のブラジル社会民主党(PSDB)を離れ、かつての政敵である労働者党のルーラ元大統領(76)の副大統領候補になることが騒がれ、最終的に決まった。その際、同氏がどの党に移籍するかの動向が注目され、結果、落ち着いた先がPSBだった。
 中道右派から左派にアルキミン氏が移籍したのは、同氏の知略というのが最適であろう。健康に問題を持つルーラ氏の“万が一”の可能性を想定に含め、その時には大統領の座を得るということが最終目的ではないか、というのが一般的な見解である。
 さすが医師であり、これまで彼の演説を目前に見る機会があったが、患者を安心させるような口調で、時にユーモアを交えながらのスピーチの上手さは圧倒的で、明らかに聴衆を魅了するものがある。
 そのアルキミン氏が選んだのが、PTほか2党(PCdoB、PV)と連立を組むか組まないかで騒がれた結果、単独で選挙戦に向かうことを決定したPSBだった。アルキミン氏にとって、過去の敵陣(PT)にどっぷりとはまることは避け、中道左派で近年は右肩上がりといわれるPSBが程よい身の置き所だったのかもしれない。
 PSBのフランサ氏がPTのハダジ氏にサンパウロ州知事選について譲歩したり、アルキミン氏は元来の政敵と組んだり、「ブラジル社会の問題を解決しなければならない」と熱く語る政治家たちの思いに嘘はないように見える。だが、選挙に勝つためのゲームに熱中し、「昨日の敵は明日の味方」、その逆も然りな世界で、ゲームはほどほどに有言実行を忘れないでほしいものである。

口を開けばアラブ系と自己紹介する人の多さ

スマホで集会参加者と記念撮影するフランサ氏とハダジ氏
スマホで集会参加者と記念撮影するフランサ氏とハダジ氏

 ところで、アルキミン氏、ハダジ氏、そしてフランサ氏の巧みな駆け引きの才はどこから来るのだろうか。この3者を紐解くと、アルキミン氏とハダジ氏はレバノン系、フランサ氏こそ庶民的な雰囲気であまり策略家にも見えず真面目な演説が印象的だが、実は妻のルシア夫人(60)もレバノン系で、妻の方が一枚上手の雰囲気がある。このアラブ系人脈が選挙戦の裏では、かなり有効に活かされている雰囲気を感じる。
 「雄弁な民」を意味するらしい「アラブ」の血が騒ぐのだろうか。雄弁なブラジル人たちの選挙戦を見ていると、日本人なら少々辟易させられ、早くその場を立ち去りたくなるだろう。「話す時間があったら動こうよ」と。同時に、党を超えた仲良しアラブ系つながりがありそうに思えて仕方ない。
 そんなわけで、ひょんなことからブラジルの選挙戦の現場を垣間見て約半年、政治活動に参加している人と話せば、口を開けば「アラブ系」と自己紹介する人がなんと多いことか。日系人政治家に比べるとアラブ系政治家が多いのは間違いなく、大統領から州知事までを輩出してきたコミュニティである。
 政治家に「雄弁」が必要なのは承知だが、同時に庶民が利益を享受するような政策実現のために「行動」できる政治家が増えることが、ブラジルの重要課題に思える今日この頃である。


《ブラジル》PT会計殺害犯が被告に=大統領は自分への批判否定前の記事 《ブラジル》PT会計殺害犯が被告に=大統領は自分への批判否定【22日の市況】Ibovespaはウォール街と共に下落するも週足では2.45%上昇、ドルは僅かに上げ次の記事【22日の市況】Ibovespaはウォール街と共に下落するも週足では2.45%上昇、ドルは僅かに上げ
Loading...