在住者レポート=アルゼンチンは今=相川知子=経済混迷の中で「超省」創立=「フェルナンデス政権」はどのフェルナンデス?

「アルゼンチンのみなさん、問題を解決する方法が必要です。秩序、調整、計画が目標達成の要です。困難で挑戦すべき問題であると私は理解しており、大統領が指し示されるように、現在と未来のアルゼンチンに私自身を捧げたいと思います」
「Los argentinos y argentinas nos demandan soluciones a sus problemas. Orden, coordinación y planificación son los pilares para poder conseguir ese objetivo.
Soy consciente de las dificultades y de los desafíos, como bien señala el Presidente, del presente y el futuro del país.」
アルゼンチンは高いインフレ、コロナ禍経済活性、IMFへの借款返済など問題が山積みで経済が迷走中だ。アルベルト・フェルナンデス大統領は、経済省、工業生産省、農林水産省を一つにした「超省」を創設し、セルヒオ・マッサ下院議長を超省大臣に任命することを7月28日に決定した。
同報は28日夜半から未明、アルゼンチンの全メディアが伝えた。ツイッターなどのSNS上では、政党の意向による再三のトップ変更に対して批判が上がっている。とりわけ、クリスティナ・キルチネル副大統領派として政党内で躍進し、ブエノスアイレス州ティグレ市市長から抜擢されたマッサ氏への揶揄や皮肉のミームが多い。

アルゼンチン経済は20日の週、今年一番のペソ安を更新。1ドルに対して実際取引のブルーレートは約340ペソまで下がった。
2019年12月の新政権発足以降、コロナ禍もあるが、明確な経済政策は見られなかった。そうした中でグスマン経済相が7月初めに辞任。後任のバタキス経済相は、国立銀行総裁に就いた。バタキス氏総裁就任のニュースは、メディアだけでなくカタマルカ州で遊説中だったエッケル総裁も驚かせたという。
バタキス氏総裁就任のニュースが報じられると同時に、フリアン・ドミンゲス農林水産大臣がツイッターでフェルナンデス大統領に辞任を表明した。
農林水産大臣は農業牧畜組合を代表する農産業従事者と輸出課徴金の折り合いで歴代の確執がある。外貨獲得の一番の源であるにも関わらず、外貨取得規制に対する姿勢を政府は崩さない。

去る25日、農産業の祭典であり、アルゼンチン最大の展示会「ルラル」が2年ぶりに開催され、CITA2022では、農産技術革新表彰式が行われた。ドミンゲス農林水産大臣は、CITA2022に深夜まで真摯に参加し、その姿には賛辞の声があがっていた。ドミンゲス農林水産大臣の辞任は、そうした雰囲気の中、双方の歩み寄り交渉が行われることになった矢先のことであった。
今回の超省創設に伴い、8月早々、新体制が布かれる見込みで、今後の人事に大きく影響する。在ブラジル大使だったシオリ産業大臣は、6月に内閣に呼ばれたばかりだが、再びブラジルに戻る予定となった。
マッサ氏は2008~09年、クリスティナ・フェルナンデス大統領政権で首相を務めていた。このときに演説前の大統領への呼び掛けを男性にも女性に使われる「PRESIDENTE(プレシデンテ)」ではなく、名詞の女性形で最後をTA(タ)と終わらせた「プレシデンタ」をあえて用い、女性大統領ということを強調、ジェンダー課題を明確にした。
マッサ氏はこのときから頭角を現し、その後、地盤のブエノスアイレス州ティグレ市の市長に就任。特に同市の治安問題に尽力した。運用は翌年となったが、NECの高速・高精度の顔認証技術搭載の街中監視システムを導入して、犯罪マップを作成。治安向上に寄与した。
マッサ氏はベルグラーノ大学法学部卒。50歳。下院で経験を積み、党内で有力政治家の地位を占め、農産業、生産、工業分野から経済危機の舵をとることになった。
現政権の「フェルナンデス政権」は、現大統領のアルベルト・フェルナンデス氏の政権ではなく、実は前々政権のクリスティナ・フェルナンデス氏(注1)の政権であるとの評判がささやかれている。これが、三つの省を統合し、権力を高めた所以であろう。
重要な高官交代劇として、フェルナンデス大統領はIMFに電話で報告したと報じられている。その一方で、クリスタリナ・ゲオルギエバIMF総裁側では対話は行っていないとインフォバエ紙が報じている。(注2)
(アルゼンチン・ブエノスアイレス在住 相川知子7月29日)
※注1=アルゼンチンでは「フェルナンデス」という名字は田中、佐藤のように多い。大統領も副大統領もフェルナンデスは偶然の一致。アルゼンチンでは婚姻で姓は変わらず法的手続きは生まれたときの姓を使う。副大統領の場合、必要なら de Kirchner(デ・キルチネル)として婚姻していることを強調することはできる。