【11日の市況・速報】Ibovespa、15営業日連続の上昇で史上最高値更新「180,000ポイントも視野に」/ドルは5営業日連続で下落/10月IPCAは26年ぶり低水準/米空母の中南米展開で地政学リスクも
南米・ブラジルの金融市場・政策・国際情勢動向
Ibovespa、15営業日連続の上昇で史上最高値更新
1994年以来の快挙、ブラジル株式市場に「歴史的ラリー」
ブラジル株式市場の代表指数であるイボベスパ(Ibovespa)は11日(火)、再び上昇し、15営業日連続のプラスを記録した。1日として下げない連騰は実に1994年6月、通貨レアル導入以前の「経済前史時代」以来となる。終値は前日比1.60%高の15万7,748.60ポイントと、2,491.29ポイントの大幅上昇。史上初めて「15万7千台」に乗せ、これまでの記録を次々と塗り替えた。
この間、イボベスパは12営業日連続で終値ベースの最高値を更新。さらに、そのうち10営業日は日中の取引高値でも過去最高を更新しており、11日には15万8,467.21ポイントを記録した。市場関係者の間では「かつては節目だった”最高値”という言葉が、今や日常語になった」との声も上がる。

為替と金利も追い風
レアル高と金利低下が投資マインドを支える
為替市場でもレアル高の流れが続いており、ドルは5営業日連続で下落。11日は0.64%安の1ドル=5.273レアルを付けた。将来金利(DI)も全ゾーンで低下傾向を示し、株式市場を一段と支える構図となった。
背景にはブラジル中銀の政策運営方針に対する期待感がある。金融政策委員会(Copom)が公表した最新会合の議事要旨では、政策金利セリック(Selic)を現行の15%で据え置いたものの、市場は文面から「来年1月にも利下げが始まる可能性」を読み取った。
XPインベストメンツのエコノミスト、ロドルフォ・マルガト氏は「金融当局は2026年に向けて、より緩やかな金融スタンスへと舵を切る余地を示した」と分析する。もっとも同氏は当面、2025年3月から0.5ポイント刻みで6回の利下げが実施され、来年末には12%まで低下すると見込んでいる。
インフレ率の改善で安心感
10月IPCAは26年ぶり低水準、通年も目標レンジ内へ
株価を押し上げたもう一つの材料は、10月の消費者物価指数(IPCA)の発表だった。月間上昇率はわずか0.09%と、1998年以来の低水準を記録。年初には目標上限超えが懸念されていたが、年末には政府目標(4.46%)の範囲内に収まる見通しが強まった。
全国証券会社協会(Ancord)のパブロ・スピア理事は、「為替の安定と生産コストの落ち着きが物価抑制に寄与している」と分析。「この傾向が続けば、インフレ率は目標レンジ内に収まり、金融緩和の余地が広がる」と評価した。
米政府閉鎖「終結」への期待
外部要因も追い風、AI関連株への不安で資金が新興国へ
米国発の明るいニュースも投資心理を後押しした。米上院は、史上最長となっていた政府閉鎖(shutdown)を終わらせるための合意案を可決。下院での承認を経て、早ければ今週にも再開の見通しが立った。
ただし、ウォール街では主要株価指数がまちまち。特にナスダックはハイテク株の下落により軟調で取引を終えた。欧州市場は反対に小幅ながら上昇。
市場の一部では、米著名投資家マイケル・バーリ氏(映画『マネー・ショート』の実在モデル)が「AI関連の一部大手テック企業は減価償却費を操作し、利益を実際より良く見せている」と批判したことも警戒感を呼んだ。AIブームへの不信が米国株の頭を抑えた格好だ。
個別銘柄:ナトゥーラ急落、ブラスケン急騰
バランスシート明暗分かれる
ブラジル市場では決算発表が引き続き株価を左右した。上昇を主導したのは運輸大手モヴィーダ(MOVI3)で、四半期決算が市場予想を上回り、株価は15.93%高。食肉業界では中国市場の再開を受け、鶏肉輸出が追い風となったマルフリグ(MBRF3)が8.15%上昇した。
一方、化粧品大手ナトゥーラ(NATU3)は市場予想を下回る業績を発表し、15.65%の急落。業界最大の下げ銘柄となった。
対照的に石化大手ブラスケン(BRKM5)は18.04%高と急騰。業績自体は低調だったが、親会社ノボノール(旧オデブレヒト)が投資会社IG4への持ち株売却で合意に近づいたとの報道が材料視された。加えて、アラゴアス州政府との間で地盤沈下事故の賠償金12億レアル支払いで和解したことも不透明感を払拭した。
主要株:ペトロブラスと銀行株が上昇を牽引
資源大手ヴァーレ(VALE3)は鉄鉱石価格が横ばいで推移したため0.26%安。一方、ペトロブラス(PETR4)は国際原油価格の上昇を受け2.60%高と堅調だった。
銀行株もそろって上昇し、ブラジル銀行(BBAS3)は3.03%高と群を抜いた。これら大型株が指数全体を支え、イボベスパの連騰記録に寄与した。
今後の焦点:米政府閉鎖の行方とAIバブル懸念
市場は12日(水)に、米下院でのshutdown法案の審議結果を見極めようとしている。また、AI関連株を中心とした「テックバブル」懸念もくすぶる。投資家の間では「16営業日連続上昇」という前人未到の記録達成への期待と警戒が交錯している。
「7つの理由」:イボベスパが止まらない構造的要因
世界的なリスク回避後の資金回帰、金利低下期待など
リコ証券のアナリスト、ブルナ・セーネ氏は最新レポートで「イボベスパの上昇は単なる一時的反発ではなく、構造的な回復」と指摘。理由として以下の7要因を挙げた。
米国の利下げ観測によるグローバル流動性の拡大
技術的調整後の買い戻し
米中貿易摩擦の緩和
為替の安定とインフレの沈静化
ブラジル企業の好業績
政治リスクの限定化
外国人投資資金の回帰
セーネ氏は「国内外のノイズを抱えながらも、指数の回復力は際立つ」と評価する。
「180,000ポイントも視野に」
Potenza Capitalの武尾氏、来年の上昇余地に言及
ポテンザ・キャピタルのチーフ・ストラテジスト、ブルーノ・タケオ氏は「ブラジル市場は他国よりも高い金利差(キャリートレード)を維持しており、外国資金の流入が続いている」と指摘する。
同氏は、「早ければ2025年1月にも利下げが始まるとの見方が強まり、投資魅力度は一段と高まっている。何も大きなショックがなければ、イボベスパは18万ポイント、さらに20万ポイントを目指す展開もあり得る」と述べた。
外国人資金の循環とリバランス
「マグニフィセント・セブン」から新興国へ資金移動
ドム・インベスティメント社のエコノミスト、チアゴ・カレスティーニ氏は「米国の巨大テック株が高値圏にあり、投資家が利益確定後に資金を他市場へ再配分している」と説明。「株価収益率がまだ割安な新興国市場、とりわけブラジルが再び注目を集めている」と語った。
XPリサーチ部門のフェルナンド・フェレイラ氏も同調し、「ドル安や米国外への資金ローテーションが続く中、国内要因も価格形成に影響し始めている」と指摘。具体的には、①近い将来の利下げ期待、②選挙関連の思惑、③企業業績の好調――の3点を挙げた。
国際環境:米空母の中南米展開で地政学リスクも
ベネズエラ緊張、トランプ政権下で軍事的圧力強まる
一方、地政学リスクの火種もある。米国のジェラルド・フォード空母打撃群が中南米海域に展開したと、米当局が11日発表。原子力潜水艦やF35戦闘機を含む艦隊がカリブ海に集結し、ベネズエラ政府のマドゥロ大統領は「米国が政権転覆を狙っている」と非難した。
米国防総省は「麻薬取引の撲滅と国際犯罪組織の解体を目的とする作戦」と説明しているが、緊張は高まっている。米国とコロンビアの間でも外交的摩擦が表面化し、トランプ大統領とペトロ大統領が相互に非難を応酬している。
物価統計の詳細:電気料金が押し下げ要因
10月のインフレ率は月間0.09%、前年同月比4.68%
ブラジル地理統計院(IBGE)が公表した10月のIPCA(消費者物価指数)は前月比0.09%上昇と、市場予想を下回った。住宅用電気料金が2.39%下落し、全体の押し下げ要因となった。
直近12カ月の累計では4.68%と、9月までの5.17%から低下。8カ月ぶりに5%を下回った。ただし政府目標(3%±1.5ポイント)の上限4.5%は依然として上回っており、中央銀行は慎重姿勢を維持している。
中国のCofco、ブラジル産大豆など2兆円規模の購入契約
中国輸入博で署名、ADM・Bungeなど大手と合意
国営穀物商社Cofcoは、中国・上海で開かれた国際輸入博覧会において、ブラジル産大豆やパーム油など総額100億ドル(約2兆円)超の購入契約を締結したと発表した。契約量は約2,000万トンに上り、取引先にはADM、バンジ、カーギル、ルイ・ドレフュスなど世界的穀物メジャーが名を連ねる。
ブラジル農業省は「中国の旺盛な需要が、ブラジルの貿易黒字拡大に一層寄与する」と歓迎している。
【総括】
イボベスパの15連騰は、単なる株高ではなく、金利・インフレ・為替・外部資金の四拍子がそろった「構造的な強気相場」の象徴といえる。短期的には過熱感も意識されるが、金融緩和局面入りと企業業績の底堅さを背景に、ブラジル市場は再び世界の注目を集めている。








