アルゼンチン最高裁=キルチネル氏の有罪確定=公職追放で左派に大打撃

アルゼンチン最高裁は10日、元大統領クリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル氏(72歳)に対する汚職事件の有罪判決を最終的に支持し、懲役6年および公職への就任資格を終生失う処分を確定させた。これにより、同氏は5営業日以内に自主的に出頭する必要がある。左派勢力の象徴的存在である同氏に対する司法判断は、今後の議会選挙と政局に重大な影響を及ぼす可能性があると同日付ヴァロール紙など(1)(2)が報じた。
今回の判決は、キルチネル氏が大統領を務めた2007〜15年にかけて、親密な建設業者に公共工事契約を不正に与えたとする22年の有罪判断を支持したものだ。控訴裁判所は23年に同判決を支持しており、今回の最高裁判断により判決が確定した。
問題とされたのは、2003〜15年に南部サンタクルス州でキルチネル夫妻と親しい建設業者ラサロ・バエス氏に発注された51件の道路工事契約だ。これらは、夫ネストル氏の大統領在任1期と、クリスティーナ氏の2期を含む、計3期にわたるキルチネル政権下で行われた。工事費の水増しは20%を超えたとされる。
司法当局は、これによりアルゼンチン行政に約850億ペソ(約7千万ドル)の損害が生じたとし、「行政の利益を著しく損なう異常な詐欺行為」と認定。最高裁は、弁護側が提出した9件の上訴を全会一致で棄却した。なお、クリスティーナ氏は70歳を超えているため、アルゼンチン法の規定により、自宅服役が認められる可能性がある。
判決確定により、今年後半に予定されている議会選挙を前に、左派勢力は主要な候補者を失うこととなった。一方、右派のハビエル・ミレイ大統領にとっては、議会における基盤を強化し、推進中の改革案を可決するうえで追い風となる情勢である。
最高裁の判断を受け、クリスティーナ氏は同日、首都ブエノスアイレスの正義党(通称ペロン党)の本部前で演説し、「この民意の封殺は選挙に出馬できない3人の判事が発案したものではない。彼らは上位の命令に従う操り人形にすぎない」と批判した。
判決発表直前には支持者らがブエノスアイレスへの主要道路を封鎖したほか、社会・政治・労働団体の指導者もクリスティーナ氏への連帯を表明した。
ミレイ大統領は判決を歓迎し、自身のXで、「正義。終わり」と投稿、「共和国は機能している」と付け加えた。マヌエル・アドルニ大統領報道官やパトリシア・ブルリッチ治安相もまた、判決の確定を歓迎するコメントを発表した。
クリスティーナ氏の代理人の一人である弁護士のグレゴリオ・ダルボン氏は、クリスティーナ氏の有罪は「証拠も審理も正義もなく、予め決められていた」と批判し、本件を米州人権機関や国連人権理事会などに提訴する意向を示した。