サンパウロ市役所=都会に浮かぶ「空中広場」=リベルダーデ再開発本格化へ=官民協働プロジェクト始動

サンパウロ市市役所(リカルド・ヌネス市長)はセントロ地区のリベルダーデ再開発計画「エスプラナダ・リベルダーデ(Esplanada Liberdade)」に本格着手する。市が示したスケジュールによれば、2025年に官民パートナーシップ(PPP)契約の入札公告を予定し、同年内に民間事業者の選定を完了させたい構えだ。実際の着工は2026年以降となり、工期は約4〜5年と見込まれている。
この計画は、サンパウロ市が進める都市再生プログラム「#TodosPeloCentro(皆でセントロを)」の一環であり、地域住民の意見を反映しながら進行している。2024年には既に「予備的協議(consulta pública)」としてオンラインおよび対面での意見聴取が実施されており、さらに2025年中盤までは法的枠組みに則った「正式な市民参加手続き(audiência pública)」が予定されている。
7月時点では45日間にわたる市民協議の期間中で、市のPPP推進機関である「SPパルセイラス」がプロジェクトの社会的・経済的意義を説明するプレゼンテーションを実施。今後は寄せられた意見を反映させたうえで入札条件を最終化し、計画の実現性を高める方針だ。
グリーンと文化が交差する空間へ
リベルダーデ地区は、日本をはじめとするアジア系移民の文化が色濃く残る歴史的な地域として知られている。今回のプロジェクトでは、その中心部にある4本の高架橋の間に「空中広場」を構築。車道を覆うスラブ(基礎床)を三層に渡って敷設し、広場、緑地、劇場、マーケットなどを立体的に配置する構想だ。
このうち上層部には「文化の広場」とも呼ばれる公共空間が設けられ、24時間開放される予定。エスプラナダには「エスペース・デ・クルトゥーラ・ダ・リベルダーデ(Liberdade文化空間)」という常設のイベントスペースや、キオスク(小規模商店)、飲食エリアも併設され、文化・商業・自然の融合を図る。市はこの空間を「都市の中の憩いと記憶の場」と位置づけている。
PPPで30年間の民間運営へ
本計画はPPP方式によって進められ、契約期間は30年。総投資額はおよそ10億レアル(約300億円)にのぼり、うち1・5億レアルは市の公的資金、残りは民間企業による投資となる。民間事業者はスラブ建設、施設の維持管理、警備、文化イベントの運営などを担う。

一方で収益源として、イベント開催料、テナント賃料、飲食・商業の売り上げなどが想定されており、その一部は市に還元される仕組み。市側の「支払い上限」は月額297万レアル(約9千万円)に設定されており、これを下回る提案を行った企業が有利になる見通しだ。
多文化都市の象徴となるか
サンパウロ市はブラジル最大の多文化都市であり、世界最大級の日系コミュニティを抱える。リベルダーデはその象徴でもある地区だ。「空中の広場」という一見未来的な構想が、果たして地域の歴史やアイデンティティとどう調和していくのか、市民のまなざしは厳しく、かつ期待も大きい。
2025年から数年かけて進むであろうこのプロジェクトが、単なる都市インフラ整備にとどまらず、「記憶」と「再生」を兼ね備えた新たな公共空間として機能することができるのか――その答えは、住民との対話と透明な運営体制に委ねられている。