米軍の船舶攻撃にベネズエラ反発=ブラジル「国境が塹壕に」と警戒

カリブ海で2日に発生した米軍による船舶攻撃で11人が死亡した事件を巡り、ベネズエラのディオスダド・カベジョ内務・法務・平和相は11日、犠牲者はいずれも地元ギャング組織「トレン・デ・アラグア」の構成員ではなく、麻薬密売にも関与していなかったと断言した。一方、米国は違法薬物の運搬を攻撃の正当な理由としており、米議会内からも行動の正当性を問う声が上がっている。この情勢を受け、ブラジルのジョゼ・ムシオ国防相は、ベネズエラとの国境地帯における軍事的緊張の激化を懸念し、国境が「塹壕」(敵の銃砲撃から身を守るために掘る溝)と化す可能性に懸念を表明したと9日付のCNNブラジル(1)が報じた。
カベジョ氏は国営テレビの番組内で、「行方不明者の家族が安否確認を求めている。我々は国内で調査を行ったが、犠牲者の中にトレン・デ・アラグアの構成員や麻薬密売人は一人もいなかった」と述べ、米国による攻撃を「国民に対する致死力のある武力を用いた殺害だ」と強く非難した。米側が船舶に薬物があったと断定した根拠や、乗船者を拘束せず殺害に至った理由についても疑問を呈した。
ベネズエラ政府は、トランプ前大統領が投稿した攻撃時の映像について、人工知能(AI)によって生成されたものだと主張している。事件発生から1週間が経過した現在も、米国防総省は同件に関する公式なコメントを出していない。
事件を受け、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は、全国284か所に軍・警察・民兵を動員して「必要であれば武力衝突も辞さない構えだ」と述べ、「わが国の全海岸線、コロンビア国境から東部地域、南北・東西に至るまで正規軍の準備は万端だ」と強調した。麻薬取引の中心とされるコロンビア国境沿いの州には、2万5千人の兵力を新たに増派する方針も明らかにしている。
マドゥロ氏は「米国は石油、ガス、金など、わが国の天然資源を無償で得ようとしている」と非難。「我々は世界第4位の天然ガス埋蔵量を有し、金の主要な埋蔵地でもある」と主張した。
米国はマドゥロ氏を麻薬密輸組織の首領とみなし、同氏逮捕につながる有力情報に報奨金を5千万ドルに引き上げ、ベネズエラ政府は「内政干渉」かつ「違法な圧力」だとして反発している。
一方、米国はカリブ海南部での軍事展開を強化しており、プエルトリコの空軍基地には最新鋭戦闘機F―35を10機配備する方針を明らかにしている。
こうした中、ブラジルは一貫して慎重な姿勢を崩していない。ムシオ国防相は5日、大統領官邸でルーラ大統領および軍司令官らと協議後、記者団に対し「我々は、国境が〝塹壕〟と化すような事態は望まない。ブラジルは平和国家だ」と述べ、緊張の高まる国境情勢への軍事的関与を避け、地域の安定に寄与する考えを示した。(2)
ムシオ氏はまた、現状を「隣人同士の喧嘩」に喩え、「私の家の壁に手を出してほしくないし、家の前の配線を抜いてほしくもない。ただ静かに、事態が過ぎ去ることを願っている」と語り、事態の沈静化に期待を示した。ルーラ大統領もまた、ブラジルが紛争回避と平和維持に努める姿勢を改めて強調している
他方、緊張が続く中でも、マドゥロ大統領は8日、今年もクリスマスの前倒し実施を宣言した。(3)これは13年の経済危機下に導入された措置で、過去に一定の成果を上げたとして、今年も10月1日から実施するとした。
国営テレビおよびYouTubeで放送された番組「マドゥロ+」においてマドゥロ氏は、「商業や文化、音楽などを通じて国民の幸福を守る」と語り、前倒しされた祝祭が経済活動や国民生活の活性化につながると強調した。
ただし、このような祝賀の政治的利用については、昨年以降、カトリック教会関係者から「教会が定めるべき宗教的日程を、政権の政治的都合で操作すべきではない」との批判も出ている。