トランプ流『ドンロー主義』=中国に対抗して中南米支配
【既報関連】トランプ米大統領は、中南米地域に対する軍事的・経済的圧力を強化し、米国の支配力回復を狙った新たな外交戦略を展開している。この政策は、19世紀のモンロー主義の理念をトランプ流に応用したもので、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は同氏の姓を文字り、『ドンロー主義』と名付けた。中南米地域を「米国の影響圏」と位置づけ、忠誠心には報酬を、反抗には制裁を課す姿勢を鮮明にし、ベネズエラやコロンビアに対する経済制裁や軍事的圧力を通じてその影響力を行使していると23日付ヴァロール紙(1)が報じた。
「モンロー主義」とは、1823年に当時の米大統領ジェームズ・モンローが打ち出した外交方針で、西半球における欧州列強の干渉を排除し、米国の影響圏を確保することを目的としていた。現代における『ドンロー主義』は同理念をトランプ流に置き換え、中南米地域での軍事・経済的介入を正当化する戦略として表れている。
トランプ氏は中南米を「米国領土の延長」とみなし、敵とみなした勢力を排除する姿勢を取っているとWSJは指摘。忠誠心を示す国には支援を与え、反抗的な国には制裁や圧力をかける。具体例として、コロンビアやブラジルにはビザ制限や経済制裁が実施されている。
米国民支持層の反応も注目される。孤立主義的外交を公約に掲げていたトランプ氏だが、MAGA(米国を再び偉大に、の頭文字)運動の支持者にとり、西半球への積極関与は理にかなった行動と受け止められている。最近の世論調査では共和党支持者の74%、24年大統領選でトランプ氏を支持した有権者の82%がカリブ海での米軍行動を支持している。
一方で批判もある。元米政府関係者や外交専門家は、米国の援助を思想的・政治的条件に結びつけることで、地域における米国の信頼性を損なう危険性があると指摘。英フィナンシャル・タイムズ(FT)は、トランプ氏の中南米での動きを「経済的意味での古典的帝国主義」と表現し、ベネズエラ沿岸への米軍派遣は「砲艦外交」の復活に当たると分析。砲艦とは、大砲を搭載した軍艦のことで、軍事力を伴う外交行動の象徴だ。
トランプ氏は軍事力投入を麻薬密輸や麻薬テロリズムへの対抗策として正当化しているが、専門家は他の意図も指摘する。マドゥロ政権打倒や、米国企業の石油事業参入支援、ロシア・中国に結びつくマドゥロ側への警告など多層的な戦略だ。FTは、特別部隊による要人捕捉など「政権交代作戦」の可能性も排除していないと報じる。
歴史的に、米国は1898〜1994年の間に少なくとも41回、中南米で政権交代に関与し、「介入国家」の汚名を着せられている。トランプ氏はエルサルバドル、アルゼンチン、エクアドル、パラグアイの右派政権を支持する一方、軍事力や経済制裁の積極活用は他国の反発も招き、ブラジルやベネズエラへの措置は中国の影響力拡大を許すリスクもある。
こうした中、トランプ氏の中南米干渉には明確な限界も存在する。(2)同氏と思想的に近いアルゼンチンのミレイ政権下で、汚職スキャンダルにより通貨ペソが暴落したことを受け、米財務省は200億ドル規模の支援を検討。
だが、現実には、アルゼンチンが中国との180億ドルの通貨スワップを先に処理しない限り、支援は進まない見通しだ。専門家は、アルゼンチンが中国との通貨スワップを先に処理しない場合、米国支援が間接的に中国人民銀行を利する形になる可能性があると指摘している。
中国は長年にわたり、独自の地政経済戦略を展開し、中南米の港湾や鉱山精錬施設への投資を拡大。米国がアルゼンチンの大豆を購入できなくなった事例は、中国の影響力と戦略的規律の高さを示すものであり、米国単独での行動には限界があることを示している。
『ドンロー主義』は単なる言葉遊びではなく、中南米における米国の軍事・経済行動を具体的に反映している。だが、『ドンロー主義』の限界も露呈し始めており、中国の影響力との競合や北極圏での戦略的プレゼンス強化など、グローバルな地政経済の複雑さもより浮き彫りになってきている。









