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抗議激化でペルー非常事態宣言=世界に広がるZ世代政治運動

2025年10月23日

万華鏡2
10日、ペルー議会で新大統領として宣誓するホセ・ヘリ氏(Foto: Victor Vasquez/Congresso do Peru)

【既報関連】ペルーの首都リマで続発する暴動と治安悪化を受け、ホセ・ヘリ暫定大統領は21日未明、30日間の非常事態を宣言した。背景には、Z世代を中心とする若者らによる抗議運動の活発化がある。こうした動きはペルーにとどまらず、各国で政変を促しているが、急速に燃え上がる抗議が持続的な変革に結びつくかは不透明だと21日付G1など(1)(2)が報じた。

ヘリ氏は、前大統領のディナ・ボルアルテ罷免を受けて今月就任したばかりだが、その政権もすでに抗議の対象となっている。今回の混乱の引き金となったのは15日、リマ中心部で発生した抗議デモだった。SNSを通じて呼びかけられたこのデモは、「Z世代」と呼ばれる若年層を中心に組織され、治安悪化や政治腐敗への不満を訴えた。

中心部のサンマルティン広場では、デモ隊がバリケードを炎上させ、警察に向けて火炎瓶や花火を投げる様子が確認された。警察は催涙ガスやゴム弾で応戦し、衝突の末、ラッパーのエドゥアルド・ルイス・サンス氏が警官の発砲により死亡した。

ルイス氏の死は大きな波紋を呼び、治安部隊の対応をめぐって政府への批判が高まった。地元メディアによると、この日だけで負傷者が100人を超え、10人が逮捕されたという。

こうした抗議の背景には、ボルアルテ政権下で強行された年金制度改革への反発がある。改革では、18歳以上の国民すべてに民間年金制度への加入を義務付ける内容が盛り込まれていた。

これに加え、長年にわたる汚職スキャンダルや経済的不安定、治安の悪化に対し、若者層が怒りを積もらせていた。抗議参加者は暫定大統領の辞任や議会解散、新憲法制定に向けた制憲議会の招集を要求している。

治安対策に乗り出したヘリ氏は、「最大の敵は街頭にいる犯罪組織だ」と述べ、暴力抑止と統治の正統性確保に躍起になっている。ヘリ政権は26年4月に予定される次期大統領選までの暫定政権で、本人は「選挙結果を尊重、権力を引き渡す」との方針だ。

こうした若者主導の抗議はペルーに限られた現象ではない。マダガスカルやネパール、モロッコ、ケニア、インドネシアなどの各国でも近年、同様の形で若年層による政権批判運動が高まりを見せている。

マダガスカルでは、電力や水不足への不満を背景とする大規模デモの末、軍部が大統領を解任。ネパールでは、政治家の親族によるSNS投稿が引き金となり、腐敗と縁故主義への抗議が高まり、首相が辞任に追い込まれた。これらの抗議の多くはSNSを通じて自発的に組織され、国境を越えて戦術や情報が共有されている。

社会学者のアテナ・プレスト氏は、「豪邸や高級車といったSNS投稿によって、これまで抽象的だった腐敗が可視化され、若者たちの政治的怒りを直接的に刺激している」と指摘。ハッシュタグ運動(SNS上で特定のキーワードに「#」を付け、抗議や主張を可視化・拡散する手法)もアジア各国での民主化運動に広がっており、香港の抗議戦術「水のようになれ」がタイやミャンマーに伝播。瞬時に移動するデモ隊や、警察の目をかいくぐる情報戦が展開される。

ただし、こうしたSNS主導の運動には脆弱性もある。リーダー不在の柔軟な構造は、運動の分裂や過激化、政府弾圧に対する防御力を弱める一因ともなりうる。実際、バングラデシュやスリランカでは、学生の死がさらなる暴動を招いた一方で、運動の方向性が定まらずに終息する例も出ている。

ドイツのシンクタンク「国際地域研究所(GIGA)」のジャンジラ・ソンバトプーンシリ氏は「SNSで火がついた運動が長期的な変革につながる保証はない」と警鐘を鳴らす。ハーバード大学の調査では、非暴力運動の成功率は1980〜90年代には65%に達していたが、2010〜19年には34%に低下した。

一方で、こうした動きを持続的な変革へとつなげるためには、SNS上の発信だけでなく、デモや集会といった従来型の抗議手法との連携に加え、政党や市民社会、制度的な主体との幅広い連携が不可欠だと専門家は指摘する。ハッシュタグの先にある対面行動と協働が今、世界の若者たちに問われている。


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