ステーブルコイン急増の理由=IOF回避、法的曖昧さも

ドルに連動する仮想通貨「ステーブルコイン」を利用した国外送金や決済が、金融取引税(IOF)を回避する手段としてブラジルで急増中だ。特に24〜25年にIOF税率が引き上げられたことで加速。現行法ではステーブルコイン取引は為替取引と見なされず、課税対象外だが、税務・金融当局は規制整備を進めており、法的な不確実性が今後の焦点となっていると20日付ヴァロール紙(1)(2)が報じた。
国外向けカード決済、外貨購入、外国送金に対するIOF税率が、24年の1・1%から25年には3・5%へと引き上げられたことで、ステーブルコインを活用した取引がブラジルで急増している。
仮想通貨価格比較プラットフォーム「ビスコイント」によると、米ドルに連動する代表的なステーブルコイン「テザー(USDT)」のレアル建て取引額は、24年の530億レから25年の740億レへと増加、対前年比で78%の伸びを示した。
国税庁の最新データによれば、25年上半期にブラジルで取引された仮想通貨の総額2274億レのうち、ドル建てステーブルコインであるUSDTとUSDコイン(USDC)は1614億レを占め、71%に達した。これは24年下半期と同水準で前年同期比では20%の増加だ。
国税庁は、ステーブルコインの保有が1銘柄につき5千レを超える場合や、仮想通貨取引が月間で3万レを超える場合には、申告が必要と強調している。25年前半の個人や法人による仮想通貨取引の申告総額は、月平均で400億レに達している。
現行のブラジル法では、ステーブルコインによる取引は通貨売買、すなわち為替取引とは分類されておらず、そのため、IOFの対象外だ。だが、ブラジル中銀(BC)や国税庁は、この分類の見直しに向けた動きを進めている。
BCによると、仮想資産の為替市場における利用を規制するための規則案はすでに提出済みで、現在は仮想資産サービスの提供に関する規制の策定作業が最終段階にあるという。
ブラジル国内の取引プラットフォーム別の内訳では、国内取引所が全体の68%に相当する1540億レを占め、外国取引所は282億5千レ。そのうち個人の取引高は18億レ、法人は264億レアルだった。
この傾向を支えているのが、ステーブルコインを法定通貨と同様に使用可能とする仮想通貨対応カードだ。米決済大手ビザのアントニア・ソウザ氏によれば、「これらのカードは銀行口座ではなく、ユーザーの仮想通貨ウォレットに直接接続しており、ユーザーと加盟店の間では法定通貨と同様の支払い体験が維持される。その過程で、ステーブルコインと法定通貨の間でリアルタイム変換が行われる」と説明。
ブラジルではCrypto.com、Picnic、Kastなどの発行するカードが、個人だけでなく、法人カードとしても提供されている。
ビザは金融機関が自らのステーブルコインを発行するためのインフラも整備している。2025年にはスペインの大手銀行BBVAが、同プラットフォームを通じてユーロ建てステーブルコインの発行を予定している。
為替専用アプリも登場、代表的なものが「DolarApp」だ。ブラジルの即時決済システム「Pix」を使ってレアルを入金し、ドル建てのステーブルコイン(USDTやUSDC)へと変換できる。適用される手数料は為替スプレッドの0・5%のみで、同アプリ発行のカードを使えばIOFを課されることなく外国での支払いが可能。
ビティバンクのウスカ氏は「ステーブルコインは企業・個人の双方で評価が高まっている。週7日、24時間利用可能で、数分で送金が完了する。受取側はステーブルコイン経由だと気づかないケースも多い。中間業者を介さず、コストの削減にもつながる」と述べる。
この取引には法的なリスクも存在する。弁護士のアナ・クラウジア・アキエ・ウツミ氏は「ステーブルコインを用いた送金は、1990〜2000年代に大手企業や銀行がIOF回避のために利用していた、『ブルーチップ・スワップ(優良スワップ)』と呼ばれる資本移動スキームと類似する可能性がある」と警鐘を鳴らす。同スキームは課税を回避する手法の一つで、当時はBCの指導により停止され、税務管理審議会(CARF)はこの手法を違法な為替取引として認定した。
ウツミ氏は「現在のステーブルコインによる送金も、同様の法的曖昧さの中にある。BCは仮想通貨が為替の代替にはならないとする立場だが、国税庁は異なる解釈を示す可能性がある」と指摘。
エンリケ・コインブラ・フィゲイレド弁護士も「仮に送金が国税庁およびBCへの申告なしに密かに行われたと判断されれば、重大な法的問題に発展し得る」との見方を示す。
国税庁が該当取引を不正と認定した場合、最大で25%のIOF課税に加え、脱税行為として100%の罰金が科される可能性がある。