ゲームから子どもを守る裏側＝低賃金で過酷なモデレーター

サンパウロ市西部のオフィスビル内の一室で、ブラジル人従業員らが、世界中の児童が利用する人気オンラインゲーム「ロブロックス（Roblox）」のアカウントを監視している。業務内容は、児童性的虐待や児童ポルノ、自傷行為の助長、いじめなどの不適切なコンテンツに対するモデレーション（規則違反の精査や削除対応）だ。モデレーターは24時間交代制で、多言語で投稿されるやり取りを解析。心理的負荷が高い業務だが、報酬は月2100レアル（約6万円）と低賃金だ。子どもたちを守るという重要な役割を担う一方、その影で過酷な労働実態が存在することが、27日付フォーリャ紙（1）で明らかになった。

従業員はロブロックスや関連会社に直接雇用されているわけではなく、米カリフォルニア州に本社を置く外部アウトソーシング企業「コンセントリックス（Concentrix）」に所属。ブラジルの子会社は主にカスタマーサポートやコールセンター業務を担当、今回のモデレーション業務もその一環だ。従業員は採用時に秘密保持契約を結んでおり、取材には勤務経験者や現職者が匿名で応じた。

コンセントリックスは取材に対し、「顧客や従業員との契約に関する事項についてはコメントできない」と回答。モデレーターの給与情報は、LinkedIn上の求人情報からも確認できる。同求人には食事補助、医療保険、語学学校の割引、ゲームルームやNetflixなどを備えた職場環境など福利厚生は充実しているが、基本給与は低額だ。

コンセントリックスの最高経営責任者（CEO）であるクリス・コールドウェル氏は、ブラジル国内での運営コストはインドやベトナム、インドネシアより高いが、国内市場の規模を考慮すると採算は合うと投資家向けに説明。ブラジルでの給与水準は、インドやフィリピンで募集されている同社の求人と同程度だが、正規雇用であるため、社会保障や勤続期間保障基金（FGTS）などの法的義務が追加される。対照的にカリフォルニア州の最低賃金は時給16・5ドルで、月換算すると約1万5千レアル（約42万円）超だ。

モデレーターらは世界中のアカウントを対象に業務を行う。求人はバイリンガルを対象とし、英語またはスペイン語の中級以上の理解力が求められる。勤務中にはその他の言語でのやり取りも解析し、同僚の協力を必要とすることもある。

アカウントはまず、人工知能（AI）によるフィルターで危険性が検知されるか、あるいは他のモデレーターが集団チャットを監視することで抽出される。ゲーム内でのやり取りはワッツアップなどのメッセージアプリのように暗号化されておらず、モデレーターは1アカウントあたり15分を目安に審査を行う必要がある。

作業には複数の操作を同時にこなす能力や、センシティブな内容に対応する心理的適性が求められる。モデレーターごとに担当分野が分かれており、児童搾取、テロや過激主義、脅迫・いじめ・嫌がらせなど専門の領域を持つ。

ロブロックスの規約は、ゲーム内での自傷行為、危険行動、差別、侮辱、ヘイトスピーチだけでなく、ゲーム外でユーザー間に生じる不適切なメッセージも対象とし、通報されればプラットフォーム上で処罰される。

多くの児童勧誘者は、まず子どもを監視の及ばないワッツアップやディスコードなどのプライベートメッセージに誘導する手口を取る。この行為は業界用語で「釣り（pesca）」と呼ばれ、やり取りは絵文字やアバターの服装や装飾を通じて暗号化される場合もあり、注意深い観察が求められる。

規則違反が確認された場合、モデレーターは直ちに地元当局へ通報せず、米国議会が設立した全米行方不明・被搾取児童センター（NCMEC）に案件を送る。NCMECは独自調査を行った上で、正式な通報手続きを進める。NCMECは9月、インターネット上の児童犯罪が急増していると警告しており、25年前半の通報件数は前年同期比で倍増した。

従業員の心理的ストレスによるPTSDリスクに備え、心理カウンセラーが24時間待機しており、ブラジル内の従業員も遠隔で支援を受ける体制が整っている。26年3月に施行予定の児童・青少年デジタル保護法（ECAデジタル）では、オンラインゲーム運営企業にモデレーター体制の整備と活動報告が義務付けられ、コンセントリックスのような企業への需要は増す見通しだ。

主要競合の仏企業「テレパフォーマンス（Teleperformance）」も、すでにブラジル内でTikTokなどのSNS向けにサービスを提供している。同社は、過酷なモデレーション業務による心理的影響を巡り、コロンビアで調査を受けたことがあるが、正式な訴追はなされず、調査は23年に終了している。