食費上昇はルーラに不利?=為替やインフレ動向と選挙

近年、世界的に食料品価格の上昇が懸念される中、ブラジルではそれが来年の大統領選に大きな影響を及ぼす可能性がある。貧困層の生活を直撃する食料品価格が、再選を目指すルーラ大統領の支持率にどう影響するか。26日付ヴァロール紙(1)が最新の経済分析と世論調査をもとに報じた。
24年9月〜25年5月に急上昇したブラジルの家庭内食料品価格は、6月以降月次で下落傾向に転じた。過去3カ月間で消費者の価格感覚も改善し、ルーラ大統領の人気回復に寄与したとの調査もある。
一方、米国では価格上昇が加速し、国民の大きな懸念材料になっている。ただし、来年の大統領選を控えるブラジルの方が、今後の急騰リスクは高いとされる。
ジェトゥリオ・ヴァルガス財団ブラジル経済研究所(Ibre/FGV)のフランシスコ・ペソア・ファリア氏は、両国の指標には特性があるとした上で、ブラジルに特有のリスク要因として、26年に向けた為替レートの下落可能性、生鮮野菜の上昇傾向の大きさ、牛肉価格の上昇圧力を挙げる。
食料品価格の上昇は、ブラジル人口の多くを占める貧困層を直撃する。ファリア氏は「食料品価格は政治的な人気を左右する。ルーラ氏の支持率は改善した一方、米国ではトランプ氏が高騰を背景に苦戦している。しかし、将来的な政治リスクは、トランプ氏よりルーラ氏の方が大きい」と述べる。
米国では7月調査で、価格上昇が最大の懸念とされ、53%が重大なストレス要因と回答。ブラジルでは、クエスチ調査で価格上昇を実感した人の割合が23年12月以来の最低値に。24年10月から上昇傾向だった同割合は、25年4月に88%に達した後、8月には60%まで低下。同調査は、関税引き上げと並び、食料品価格認識の緩和がルーラ氏の支持率回復に影響したと示している。
地理統計院(IBGE)によると、25年8月の家庭内食料品価格は、広範囲消費者物価指数(IPCA)で前月比0・83%下落。6月、7月に続き3カ月連続の下落となった。5月は横ばいの0・02%上昇。IPCA15(IPCAの速報値)も9月に4カ月連続の下落を示し、0・63%の下落率は8月の1・02%に次ぐ水準だった。
26年大統領選に伴う為替への圧力がブラジルの主なリスクと分析。22年の経験から、選挙前の財政拡張は特定の政治思想に限らず見られ、市場は債務動向を厳しく見るので財政悪化懸念からレアル安になる可能性を指摘する。
加えて、ここ最近は生鮮野菜価格が異例の動きを見せていると指摘し、「ブラジルで食料価格が今後、上昇する可能性は十分に高い」との見通しを述べた。
一方、作付面積の減少が供給減と価格上昇につながる可能性もある。例えば主要産地・リオ・グランデ・ド・スル州
では、25/26農年の米の作付面積が約5・2%減少見込みだ。
牛肉価格に関しては畜産サイクルが影響する。価格下落が長期化すると、畜産農家は子牛の生産を抑え、メス牛の屠殺が増加。一時的な供給増で価格が下がるが、その後供給不足から価格上昇へ転じやすい。25年4〜6月期には、IBGEのデータでメス牛の屠殺数が雄牛を初めて上回るという歴史的状況が示された。
政治学者ラファエル・コルテス氏は、インフレが一定の影響力を持つとはいえ、ルーラ氏の再選を決定づける主要因ではないと指摘。ブラジルは依然として非常に二極化した政治状況があり、その特徴の一つが「固定化された政治的な選り好み」であり、変化が難しいと強調。それがルーラ政権への「かなり高い拒否感」につながると見ており、これは経済情勢とはある程度独立していると考えている。
「最も脆弱な層においてさえ、選挙での与党勝利に対する肯定的な評価は、過去に比べて小さい」という。政府自身もインフレ改善だけでは十分でないことを認識しており、そのため特に、社会分野における政策、例えば「すべての人にガス」計画、電気料金補助、所得税改革などに取り組む姿勢を示していると見ている。こうした取り組みが今後、有権者の生活実感にどう反映されるかが、再選の行方を左右する鍵となりそうだ。