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パリ名門オペラ歌手として凱旋=黒人への幾多の偏見乗り越え

2025年9月27日

万華鏡2
ロレーナ・ピレス氏(Foto: Vinicius Jardim/Divulgação)

パリ国立オペラ・アカデミー(Académie de l’Opéra national de Paris)に所属するソプラノ歌手ロレーナ・ピレス氏(25歳)が、ブラジルで凱旋公演する。キロンボラ(黒人の逃亡/解放奴隷の子孫)の血を引く黒人女性として、同アカデミーに初めて選ばれたロレーナ氏は、現在2年間の若手芸術家育成のためのレジデンス・プログラムに参加中だ。同アカデミーの一員としてブラジル3都市を巡るツアーに今回臨む。差別と偏見に抗いながら歩んできたその足跡は、歴史的意義も帯びていると25日付エスタード・デ・ミナスなど(1)(2)が報じた。

ロレーナ氏は幼い頃から音楽に親しんでいたが、本格的にクラシック音楽と出会ったのは16歳。声楽のレッスンを受ける中で教授陣と出会い、人生は一変した。エスピリトサント州立音楽大学(FAMES)で声楽を学び、同州主催のクラシック音楽祭で注目を集めた。23年、サンパウロ州のタトゥイ音楽院主催の「ジョアキナ・ラピーニャ声楽コンクール」で優勝し、サンパウロ市の市立劇場で公演した。この成果が、彼女を国際舞台へ導く契機となった。

23年12月、パリのバスティーユ歌劇場で行われたオーディションで、ロレーナ氏はプッチーニ作曲『ドレッタの夢』を完璧に歌いこなした。だが、続くフランス語『カルメン』のミカエラ役を歌う際は緊張で足が震えたという。準備不足でも果敢に挑み、見事合格を勝ち取った。

東北部バイーア州にルーツを持つ彼女は、幼少期に家族と共に朝早くから市場へ農作物を売りに行く日々を過ごした。父ジョアン氏からは「不屈の精神」、母ニーセ氏からは「夢見る心」を受け継ぎ、母親が仕立てた衣装を身に纏い、舞台に立つなど、家族の支えを得て芸術に邁進してきた。

幼少期より人種差別を肌で感じてきたロレーナ氏は、自らの声を外に向けて発することに強い抵抗があった。音楽への愛着はあったが、「常に自分の殻に引きこもっていたわ」と振り返り、歌うのは主に家の中で、せいぜい親しい友人がいる時だけだったという。好きな音楽を楽しむ自由さえ、差別の影に覆われていた。

声楽の世界へと進んだ後も、業界内での人種的偏見に苦しんだ。例えば、舞台のリハーサル時に歌手指定の椅子に座っていたところ、「ここは歌手専用の席ですよ」と咎められた経験も。舞台裏で見知らぬ人物から「掃除しに来たのか?」と声をかけられたこともあるという。

差別はあからさまな暴言ではなく、ごくさりげないかたちで現れるといい、「それが繰り返されるなかで、差別による痛みに押し潰されてしまいそうになる」と吐露する。精神的バランスを保つため、彼女はパリに拠点を移した現在も、リオ市在住の黒人女性心理士と定期的なオンライン・カウンセリングを続ける。「苦しいけど立ち止まってしまわないよう、自分を強く持ち続けなければならない」との言葉からは、現実との静かな闘いに挑む姿がにじみ出る。

今回のツアーは26日のリオ市を皮切りに、サンパウロ市では28日にサンペドロ劇場、10月3日と4日には市立劇場で公演を予定。10月8日にクリチバ市のグアイラ劇場、翌11日には再びリオ市立劇場で公演を行う。

プログラムは「フランス歌曲とブラジル歌曲」と題し、ヴィラ=ロボスやシキーニャ・ゴンザーガ、レイナルド・アーン、フランシス・プーランクらの作品が披露されるほか、「ビゼーとその同時代作曲家たち」として、『カルメン』の作曲家没後150周年を記念した演目も行われる。

同アカデミーのディレクター、ミリアン・マズージ氏は、「我々アカデミーにとり20年以上ぶりとなるブラジルツアーは、非常に意義深い機会となる。新しい聴衆との交流を深め、文化の架け橋となることが何より大切だと考えている」と語っている。


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