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事前通知なく自宅住所が台湾名に=発音困難な名称に住民困惑

2025年10月2日

万華鏡2
Chen Chung Hsin通り(9月28日付G1サイトの記事の一部)

「ピザすら頼めない」――サンパウロ州内陸部リベイロン・プレト市の新興住宅地で、単なる番号名だった「Rua 33番通り)」が突如、台湾系の人名を冠した「Rua Chen Chung Hsin」に改名された。ブラジルでは住所が通り名で表記されるため、その発音の難しさからオンライン注文、住所確認、緊急通報に至るまで、あらゆる場面で支障が生じ、地域住民の日常に思わぬ混乱をもたらしている実情を9月28日付G1(1)が報じた。

問題となっているのは、同市南部に位置するタウンハウス型分譲地「レジデンシアル・タイワン」だ。今年初めに住民の入居が始まったばかりで、通り名はこれまで番号で表記されていたが、8月28日付の市政令第202号により、3番通りが「Rua Chen Chung Hsin」に正式に改名された。同政令にはリカルド・シルヴァ市長の署名が記されている。

土地開発の登記資料によれば、同地の元所有者が「Chen Chung Hsin」氏であり、通り名はこの人物への敬意を込めて命名されたという。だが、居住者らによれば、名称変更に関する説明や正式な通知は事前に一切行われておらず、住民は公共機関や宅配業者から届いた書類に記載された新しい住所を見て、初めて変更を知ったという。

ある女性住民は「24年12月に支払った生存者間不動産譲渡税(ITBI)では、住所が『3番通り』のままだった。誰にも何の連絡もなかった。私は今でも、住所を説明する時は旧名で伝えている」と話した。

加えて、発音の難しさが生活上の大きな障壁となっている。住民の一人で弁護士のアリオヴァルド・ペレイラ氏は、「住所を人に伝えるには、綴りを1字ずつ説明しなければならず、実用的ではない。何をするにも支障が出て、ピザ1枚頼むのにも一苦労だ」と訴える。

なお、今回の政令では「3番通り」に限らず、同地区内の他の通りも同様に改名の対象となっている。全5本の通りのうち、1番通りは「Chen Jon Fu」、2番通りは「Chen Mei Yuan」、3番通りが問題となっている「Chen Chung Hsin」と、それぞれ台湾系の人名が付与された。

一方で、4番通りと5番通りについては、「グレニオ・ラベカ(Glenio Labeca)」、「ジョゼ・モリナリ(José Molinari)」とポルトガル語由来の人名に改められたため、発音上の困難は発生していない。

同地域にまもなく転居予定の弁護士、パウロ・ロベルト・マルチンス・ジュニオル氏は、「通販サイトで郵便番号を入力すると、自動的に『Chen Chung Hsin』と表示されるが、この名称は発音も聞き取りも非常に難しい。たとえば緊急時に通報を行う場面を想像してほしい。通報先で『住所は?』と聞かれた際、この名称を正しく、かつ素早く伝えるのは至難の業であり、救助の到着が遅れる可能性も否定できない」と懸念を示した。

改名手続きについて、同市議会は「市議会には一切の提案・審議がなかった」とコメントしている。通例では、道路名の改定は立法府または行政府の提案により進められるが、今回のケースでは市役所が開発業者の申請に基づき、独自に決定したという。

市当局は書面による説明で、「今回の名称選定は、地域開発に関わった家族を称えるものであり、その記憶を残し、市への貢献を顕彰することを目的とした」と述べている。

なお、音声学の専門家によると、台湾をはじめとする地域で使われる中国標準語(マンダリン)には、ポルトガル語には存在しない無気音と有気音の区別や、声調(トーン)による意味の識別といった音韻的特徴があるという。このため、ポルトガル語を母語とする人々にとっては、発音や理解が極めて難しく、大きな障壁となっていると指摘されている。

今回のように、通りの名称ひとつが地域住民の生活に影響を及ぼすケースは少なくない。とはいえ、この種の街路や地名の移民名称問題は、ブラジルでは伝統的だ。

サンタカタリーナ州Schroeder市は、ドイツ系の名前でシュロエーデルと読むが、ブラジル人は「エスシローデル」と誤読することが多い。同様にパラナ州でウクライナ系移民が多いことで有名なプルデントーポリス市では、ウクライナ移民名「Kovalchukコヴァルチュークなどが街路名となっており、発音しづらい。ブラジル人は「コバウチュキ」と発音することが多いという。

最初は面食らうが、いずれ慣れていくと見られている。


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