コンテナ物流に潜む麻薬帝国＝犯罪組織が「国際ビジネス」

ファヴェーラ（貧民街）での警察による掃討作戦が報じられる一方、真の戦場は海上にも広がっている。世界貿易の中核を担うコンテナ物流を舞台に、ブラジルの二大犯罪組織、州都第一コマンド（PCC）とコマンド・ヴェルメーリョ（CV）が、巧妙かつ組織的なコカイン密輸網を構築。合法的な貨物に紛れ込む違法薬物、港湾関係者への腐敗工作、欧州やアフリカへの迂回ルートなど、その手口は単なる密輸の域を超え、数十億ドル規模の「国際ビジネス」化している実態について4日付エスタード紙（1）が報じた。

コンテナを介した国際貿易の物流網は、合法的な貨物と麻薬が入り混じる巨大な舞台で、PCCとCVはその中枢で活動する。世界には約3億1600万人の麻薬使用者がおり、そのうち約2500万人がコカイン使用者と推定されている。このコカインの大部分は南米で生産され、両組織の密輸網によって欧州やアフリカへと運ばれる。

PCCは単独でも少なくとも28カ国に2千人以上の構成員を送り込み、ボリビア、ペルー、コロンビアで生産されたコカインの欧州への流通の大部分を管理する「麻薬密輸の超国家的帝国」と称される存在だ。ポルトガル情報安全局によれば、同国内には少なくとも1千人のPCCメンバーが潜伏しており、多くは在リオ・ポルトガル総領事館での汚職工作を経て入国している。

CVもコカイン市場に関与し、南米で購入した麻薬をブラジルの港に輸送、密梱包し、欧州へと送り出す体制を整えている。主要な輸出港はサントス、パラナグア、イタジャイのほか、北部アマゾン地域のヴィラ・ド・コンデやイタキなども活用されている。

麻薬をコンテナに潜り込ませる方法としては、合法貨物に紛れ込ませ、目的地で荷を抜き取る「リップオン／リップオフ」方式が一般的だ。出荷港では腐敗した港湾関係者やターミナル職員の協力を得て密梱包し、到着港では別のグループが回収する。特に冷蔵コンテナが好まれ、検査が困難であることに加え、食品などの生鮮物の輸送が理由で検査による遅延を避けられるという。

偽装コンパートメントや船底へのパッケージ固定、GPS付きパッケージの海上投棄と小型船での回収など、多様な手法が採られる。

世界では年間約9億TEU（1TEU＝標準的な20フィートコンテナ1本分）のコンテナが取引されるが、実際に検査を受けるのは全体の2％未満に過ぎず、麻薬発見のリスクは低い。港湾の高頻度取扱い状況では、検査率を倍増させることは物流上困難であり、経済的損失も大きい。

PCCとCVは欧州主要港への直送に加え、独・ハンブルク、西・アルヘシラス、仏・ル・アーヴル、伊・ジョイア・タウロ、葡・シーネスなど地域港を経由し、リスク分散する戦略を取っている。到着港ではコンテナの位置情報、担当者、出庫時刻を事前に把握し、労働者や運搬業者を介して封印を偽装するなど精緻な作業を行う。

直接ルートが危険になる場合、モロッコのタンジェMED港、西アフリカのギニア湾沿岸、カナリア諸島などの迂回ルートが活用される。欧州市場は世界で最も利益率が高く、南米で1キロあたり約1千ドル強のコカインが、欧州では卸値で最大3万5千ユーロ（約4万ドル）に達することもある。

両組織は単独で販売するのではなく、欧州の犯罪組織に対し、物流サービスを提供する形で、南米での購入・梱包・発送を管理し、現地での抽出・販売は欧州側が担う。この分業体制で港湾汚職が常態化している。

PCCは年間約10億ドル、CVも金融部門のみで年間約60億レアルの取引実績が確認されており、収益は再投資・洗浄され、事業の多角化に用いられる。企業の偽装、燃料スタンド、農場購入、タバコ密輸なども行い、違法利益の合法化を図る。

巨大犯罪ネットワークの維持には法律・会計・不動産・港湾・物流・ITなど多層的な専門家の協力が不可欠だ。組織解体には現場だけでなく、資金流通、企業、港湾、関係者まで含めた統合的な捜査が必要であり、利益の現金化過程を追跡することが崩壊への鍵となる。

港湾における全コンテナの開封は不可能だが、技術や情報活用で犯罪空間を縮小可能だ。高度なスキャナー、データ分析、アクセス監視の徹底に加え、汚職関係者への厳罰適用が求められる。

ブラジルにおける貧民街支配の問題は単なる治安課題にとどまらず、政治・社会制度の脆弱性を突いた巨大犯罪ネットワークの末端表層に過ぎない。対処には力だけでなく、資金・港湾・企業・人材を含めた包括的戦略が求められる。