Drexプラットフォーム閉鎖=ブラジルのデジタル通貨が民間主導へ
【既報関連】ブラジル中銀(BC)は、開発中のデジタル通貨「Drex(ドレックス)」の試験用プラットフォーム閉鎖を決定。当初計画していたブロックチェーン技術を活用した広範なデジタル通貨としての実装を一旦断念し、開発の方向性を転換した。今後は、銀行のステーブルコインや特定用途向けトークン化インフラへの応用に軸足を移す方向で開発が続けられると4日付ヴァロール紙(1)が報じた。
Drexは試験段階にあり、従来の金融資産をトークン化するため、暗号通貨のブロックチェーンに類似したインフラ構築を目指し、第2段階のテストを終えていた。だが、プロジェクトは高額な運用コストや取引プライバシーの確保の困難さに直面。この課題は、BCとDrexに参加する民間コンソーシアムとの会議でも取り上げられ、8月には次の開発段階で分散型台帳(DLT)のネットワークを使用しない方針が報じられていた。第3段階に関する議論は26年初頭に開始される見込みだ。
Drexの試験プラットフォーム停止が、民間によるトークン化やステーブルコインの開発に道を開く可能性があると専門家は指摘する。ステーブルコインは、特定の法定通貨と価値を1対1で連動させた暗号資産で、決済や送金において仲介者を必要とせず、プログラム可能な利点がある。
中南米でトークン化事業を展開するHamsa社のヘンリケ・テイシェイラ代表は、「Drexのプラットフォーム閉鎖はプロジェクト関係者にとって『冷水を浴びせられたような状況』だが、ブラジルでのトークン化そのものを終わらせるものではない」と述べる。「(DrexのCBDC構想が頓挫したことで)民間銀行は今後、自前のステーブルコイン開発に着手する可能性が高い」と語った。
4月にはイタウ銀行が自社ステーブルコインの発行を検討していることを認めた。この規制はBCが所管しており、月内にもガイドラインが発表される見込みだ。テイシェイラ氏によれば、銀行が参入可能なモデルの一例には、サフラ銀行が9月に発行した米ドル連動型デジタル通貨が挙げられる。顧客に為替エクスポージャーを提供していても、従来の外為市場手数料や金融取引税(IOF)を回避できる点が利点だという。
銀行が自国通貨連動型ステープルコインを活用すれば、これまで「暗号資産圏外」で取引されてきた債券や受取債権、投資信託などのトークン化決済も可能になる。テイシェイラ氏は「初期段階で有利になるのは、迅速に製品を市場投入できる銀行。大手銀行はリソースとノウハウが豊富であるため、優位に立つ可能性がある」と指摘する。
ブラジル銀行連盟(Febraban)は声明で、試験用プラットフォーム停止の決定は、BCが目指す「将来インフラの安全性と安定性へのコミットメント」を反映するものだと説明。同連盟は引き続き、Drexの開発支援グループに参加。中小銀行を代表するブラジル銀行協会(ABBC)は、現行プラットフォームの停止後も、ABBC加盟銀行が開発したユースケースを他のネットワークに接続できる技術を保有していると発表している。ABBCはDrexの実験で、銀行信用証書(CCB)のトークン化にも取り組んできた。
ブロックチェーン企業のBBChain社は、ABBCコンソーシアムの一員として、Drex第2段階のパイロットが「目的を果たした」と評価。同社は「市場主導の範囲を明確にした新しいビジネスモデルであれば、パイロットでの規制上の制約なしに要件を満たせる」と説明した。
DrexのCBDCとしての展開停止は、国際的な潮流にも沿う動きだ。米国では、トランプ政権初期にCBDC創設を禁止し、民間ステーブルコインを促進する大統領令が出されている。
Drexは23年から開発が進められ、第1段階では預金や国債取引のトークン化が試験された。第2段階は昨年10月に公募を開始し、最終報告書は26年初頭に完成予定だ。両段階ではDLTネットワークがプラットフォームとして使用された。
続く第3段階では事業ケースの研究を継続するが、技術は「アーキテクチャに依存しない方式」が採用される見込みだ。これは、従来フェーズで試験されたプライバシー保護技術が、BCによる監視・透明性を維持しつつ完全なプライバシーを確保できなかったためだ。将来的には、決済通貨をBCが発行する環境下でトークン化を再検討することが目標とされる。








