ナチス擁護にキッパリNO!=サンパウロ市市長、大物ラッパー公演を阻止《記者コラム》
予想外のことでサンパウロ市のリカルド・ヌーネス市長が話題になっている。
政治家としてのヌーネス氏は、宗教地盤はあるものの極端なことは好まないという典型的な中道政治家で、所属政党は、「地方選では強く、議員も多いが、大統領になるほどのカリスマは生まれない」との評判の民主運動(MDB)。2021年にサンパウロ市副市長を務めていた際に、ブルーノ・コーヴァス市長(当時)が志半ばで癌により急逝しことを受け、市長に昇格。2024年の市長選で見事当選を果たしたものの、どこか地味なイメージの拭えない人物だ。
そんなヌーネス氏が先週から若い市民を中心に注目を集めている。発端は、29日にインテルラゴス・サーキットで公演が予定されていた米国の大物ラッパー、カニエ・ウエストの公演が中止になったところにある。
カニエは、かねてから反ユダヤ、ナチス礼賛発言で知られ、サンパウロ市での公演が発表された時には、主に左派寄りの人たちから「ナチス信奉者の公演を許すな」との公演反対運動を起こされていた。
それでもカニエの人気は世界的なもので、チケットの売り上げは良かった。だが、そこにヌーネス市長が公演中止を宣言したのだ。インテルラゴス・サーキットの運営権は市にあり、ヌーネス市長は「ナチス信奉者などにサンパウロ市の施設は使わせない。そんなことをすればサンパウロ市の汚点になる」と宣言し、公演を阻止した。
ブラジルではナチスを擁護する言動は憲法違反とされているが、「絶対に許さない」とまで強い反対姿勢を示すのは一般的には左派のイメージだ。それを、むしろ右派寄りのヌーネス市長が毅然とした態度で厳しく対処したことでインパクトが増大した。
「あの市長の言うことに初めて共感した」――前回、前々回の市長選で急進左派のギリェルメ・ボウロス氏に投票したであろう若い人たちがSNSの投稿欄でジョーク混じりにそうした発言するのをコラム子はすでに何度も見ている。
こうした民主主義的な「けじめ」に関しては、やはりブラジルは徹底した厳しさがある。この件がブラジルで話題になっている頃、当のカニエは偶然にも日本で行われた人気ラッパー、トラヴィス・スコットのコンサートに飛び入りして、日本人ファンから歓声を浴びていた。日本の音楽ファンもカニエのナチス礼賛の問題に関しては当然知っている。だが、そこでキッパリと拒絶するか、喜んで受け入れるか。今回の件で皮肉にもブラジル人と日本人の民主主義に対する倫理観の差が出たような気がした。(陽)








