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外国人政策に「不都合な争点」?=丁寧な「外国人問題」の議論を=日本の未来を左右する分岐点《編集長コラム》

2026年2月3日

 「外国人犯罪を甘く見ている」という懸念


 法治国家において、国籍を問わず犯罪は許容されざる行為であり、法に基づく厳正な対処が不可欠であることは論をまたない。

 しかし、後述する警察庁統計が示唆する現実はより複雑だ。犯罪の多くが特定の「在留資格」層に偏在している事実を直視すれば、「外国人」という巨大な主語で一律に規制を強めることが、必ずしも治安向上に資するわけではないという逆説が浮かび上がる。

 厳格な管理が求められているのは、制度設計そのものに不安定さを抱える在留資格の運用であって、すでに地域社会に深く根を下ろし、安定した市民生活を営む定住外国人層ではない。無差別な締め付けは、かえってコミュニティの地下化や孤立を招き、治安リスクを増幅させる「排除のパラドックス」に陥りかねない。

 本稿が提起するのは「取り締まりか、共生か」という二項対立ではない。法執行の実効性を高めるためにも、制度設計の不備と支援体制の欠落を見直すべきだという、極めて現実的な政策提言だ。

厳罰化が招くパラドックス
厳罰化が招くパラドックス

 在留資格別アプローチへの転換


 2025年末に公表された最新の警察庁統計は、日本国内における来日外国人の犯罪動向が看過できない水準だと示した。外国人犯罪は、2000年代半ばをピークに長期的には減少傾向をたどってきたが、近年は人の往来の回復と在留・来日外国人の増加を背景に、足元では再び増勢に転じている。

 2024年の来日外国人による刑法犯・特別法犯の検挙件数は2万1794件に達し(https://www.npa.go.jp/hakusyo/r07/honbun/html/bb4432000.html)、前年比約20・5%増という大幅な伸びを記録した。検挙人員も約1万2170人に上る。在留外国人全体の犯罪件数が長期的に抑制されてきた一方で、来日外国人を含む直近の動向には増加が見られる。

 ここで留意すべきは、警察庁統計における「来日外国人」の定義が、「永住者等を除いた在留資格を持つ外国人」に限定されている点だ。この数字からは永住者層の犯罪動向は読み取れない。

 この統計を在留資格というフィルターを通して分析すると、犯罪に関与する層の構造的特徴が浮き彫りになる。複数の資料や関連データのクロス分析から導き出される、2024年の在留資格別傾向は以下の通りだ。なお、これは特定の集団をステレオタイプ化するものではなく、制度が生む歪みを可視化するための指標だ。

【技能実習生】検挙人員において最大規模の比率を占める層の一つである。労働力としての母数の大きさに加え、万引き・侵入窃盗などの財産犯において相対的に高い検挙率を示している。

【特定技能】技能実習からの移行や新規入国が増加する中、検挙人員の一角を占めるに至っている。特に窃盗や不法就労助長(在留カード関連)などでの検挙が散見される。

【留学生】「就労」と「就学」の狭間で経済的困窮に陥りやすい層でもあり、主要な検挙対象となっている実態がある。

【その他の在留資格(家族滞在・日本人配偶者等・永住者など)】相対的に検挙率は低い水準に留まるが、罪種によっては散発的な検挙事例が存在する。

安定が犯罪を防ぐ
安定が犯罪を防ぐ

 在留資格別の検挙傾向と政策的含意


 データが示すのは、技能実習、特定技能、留学生といった「短・中期滞在」かつ「就労・就学目的」の資格者に検挙が集中しているという現実だ。個人の資質以前に、複合的な構造要因が絡んでいると見るべきだ。

▼言語と文化の障壁

 十分な日本語能力や法慣習への理解が欠如したまま社会に放り出されることで、軽微な逸脱が犯罪へと発展しやすい。所属機関による管理の不徹底が、入管法違反や在留カード不携帯といった形式犯の増加を招いている。

▼労働環境の脆弱性と社会的孤立

 技能実習や特定技能といった資格は、構造的に雇用主への従属性が強く、労働環境の悪化や社会的孤立を生みやすい。こうした「制度的脆弱性」が、規範意識の低下や生活犯罪への誘因となっている可能性は否定できない。

▼管理体制の形骸化

 不法残留や偽造在留カード所持といった特別法犯は、在留資格制度そのものの運用不全と表裏一体である。適正な管理が行き届いていないことの証左とも言える。


 罪種別内訳と国籍別動向のリアリティ


 警察白書(https://www.npa.go.jp/toukei/seianki/R05/r05keihouhantoukeisiryou.pdf)によれば、来日外国人の刑法犯において「窃盗(侵入窃盗・万引き)」が最多であり、全体の2割以上を占める。また、単独犯よりも共犯率が高く、組織的な傾向が見られる点も特徴的だ。

 国籍別に見ると、ベトナム、中国、フィリピンなどアジア圏出身者が検挙件数・人員の大半を占める。一方、ブラジル国籍者については全体数では相対的に少ないものの、特定の犯罪類型において警戒すべき傾向が出ている。令和6年の統計では、覚醒剤取締法違反での検挙件数が51件(検挙人員40人)となり、中国・ベトナムと並び上位に位置している。これは特定のコミュニティの課題として直視すべき数字だ。


 政策対応への視座


 以上の分析から、今後の外国人政策と治安対策においては、「在留資格ごとのリスクとニーズ」に応じたきめ細かな調整が不可欠であることが明らかだ。特に検挙人員が目立つ技能実習・特定技能・留学生層に対しては、単なる取り締まり強化だけでなく、制度運用の適正化、生活支援、日本語教育の拡充といった「統合政策」が急務だ。

 同時に、永住者や家族滞在といった中長期定住層の検挙率が相対的に低い事実は、生活の安定と社会統合の進展が、治安維持に対する最強の防波堤であることを示唆している。官公庁は、こうした相関関係を明らかにするためにも、より透明性の高いデータ開示と多角的な分析を進めるべきであろう。

調整弁としての扱いが歪みを生む
調整弁としての扱いが歪みを生む

 外国人犯罪統計が突きつける構造的課題


 数字の表面的な増減に一喜一憂することではなく、その背後にある社会構造を冷徹に読み解く分析が重要だ。

 統計が語っているのは、「外国人の総数が増えれば犯罪が増える」という単純な因果関係ではない。「短・中期の労働力確保」を主眼とし、生活者としての基盤が脆弱な在留資格層に、検挙が集中しているという構造的な現実だ。

 そこには、労働力として外国人を渇望しながら、社会構成員としての支援や統合の仕組みを放棄してきた、日本政治の長年にわたる「不作為」が透けて見える。

 想像してほしい。製造ライン、物流、建設、介護、外食――日本社会のインフラは、もはや外国人労働者なしには一日たりとも機能しない。にもかかわらず、彼らを「調整弁としての一時的労働力」と見なし、言語教育や法制度の周知をコストとして切り捨ててきたのではないか。

 その結果としての軽微犯罪の増加であるならば、責められるべきは個々人だけではなく、欠陥を抱えた受け入れ制度そのものでもある。

 対照的に、永住者や日系ブラジル人など、定住化が進んだ層では検挙率が低いという事実は、政策の方向性を示唆している。特に在日ブラジル人社会は、30年以上にわたり日本の地域経済を支え、次世代は日本の学校で育ち、日本語を母語とする「市民」となっている。

 しかし選挙の季節になると、彼らは一括りに「外国人労働者」として消費され、治安や社会保障コストの文脈でのみ語られる。これは実態との乖離があまりに甚だしい。薬物犯罪など一部の統計を切り取り、国籍全体にレッテルを貼るような議論は、社会の分断を深めるだけだ。もっと丁寧な議論が行われてもいいはずだ。

 犯罪はあくまで個人の責任に帰するものであり、エスニシティ全体の問題へとすり替えてはならない。政治はその境界線を明確に示す責任がある。

 今回の総選挙で各党は「外国人政策」を掲げるが、問われているのは「数の多寡」ではない。これからの日本社会を維持するために、外国人をどう迎え、どう支え、どう社会に包摂(インクルージョン)していくのかという覚悟だ。

 日本人も外国に移住するし、外国人も日本に定住する。国内で外国人が受ける待遇は、外国で日本人が受けるそれと対応する。グローバル化が進む現代において、「必要な時だけ労働力として使い、問題が起きれば排除する」というご都合主義は通用しない。

 定住と社会統合が進んだ人々ほど治安リスクが下がるという統計的事実は、理想論ではなく、すでに日本で起きている実証された現実だ。

 選挙とは、不安を煽って票を集める場ではなく、現実を直視し、「国としての未来への選択」を共有する場であるべきだ。我々の生活と安全を守るためにこそ、外国人の「位置づけ」を根本から再定義する。有権者一人ひとりに、その冷徹な判断が迫られている。

不都合な争点
不都合な争点

 各党が回避する外国人政策の「不都合な争点」


 総選挙において、外国人政策は主要な論点の一つとされながらも、各党の主張は「治安強化」「共生社会」といった抽象的なスローガンに終始しがちではないか。在留資格ごとの構造的欠陥や制度疲労について、本質的な議論が避けられているように見える。

 第一の争点は、「短期滞在型ビザを事実上の低賃金労働力の供給源として固定化してきた責任」である。技能実習や特定技能は人手不足を補う生命線であるが、低賃金と不安定雇用、教育不在という条件下に置かれ続けている。「なぜ特定の資格層に検挙が集中するのか」という問いは、「制度が犯罪を誘発していないか」という自己検証の問いでもある。

 第二の争点は、「管理強化」と「排除」の混同だ。法の支配に基づく取り締まりは当然だが、それを口実に外国人全体への監視を強めることは合理的ではない。統計が示す通り、定住層の犯罪率は低い。リソースを集中すべきは制度的に不安定な層の支援と管理であり、安定した定住層の排除ではない。

 第三に、日系ブラジル人を含む中長期定住外国人が、政策論議の「主体」として認識されていない点だ。彼らはもはや一時的なゲストではなく、地域社会の構成員だ。しかし、公約において彼らは依然として管理対象としての「外国人労働者」の枠内に留め置かれていないか。

 一部の犯罪統計を背景分析なしに強調し、特定の国籍者を危険視するような政治的言説に対しては、明確に釘を刺さねばならない。個人の犯罪とコミュニティ全体の属性は峻別されるべきだ。

 第四の、そして最大の争点は、「外国人を一時的な労働力として消費し続けるのか、社会の構成員として正式に制度化するのか」という『国家としての選択』だ。主要政党はこの問いに対し、明確な回答を先送りしている。定住と統合が進むほど治安が安定するという現実は、すでに答えを提示している。

 選挙とは本来、こうした直視しがたい課題を可視化するプロセスであるはずだ。外国人政策を曖昧な言葉で覆い隠したままでは、日本社会の持続可能性も、治安の安定も望むべくもない。求められているのは、排外主義でも無原則な開放でもなく、100年後の日本の国益を見据えた、在留資格ごとの実態に即した「制度の再設計」ではないか。(深沢正雪)




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