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ブラジル日系社会=『百年の水流』(再改定版)=外山脩=(371)

2026年3月31日


 しかし蔵相は、公的資金による救済の可能性は否定した。

 蔵相は超ハイパー・インフレを止めるための緊縮・均衡財政への転換に取り組んでいた。

 片山は、海外経済協力基金の資金協力に関する保証も再陳情したが、良い返事はなかった。

 その基金の件については、実は、前記した五月二十一日の共同記者会見が行われた時、東京から何度目かの調査員がサンパウロ入りしていた。その最中のデフォルト発表であった。

 しかも、この件に尽力していた渡辺外相は、病気のため四月に辞任していた。

 総てが悪い方向へ悪い方向へと急傾斜していた。

 六月二日、ゼルヴァジオが体調を崩した。

 十数日前、筆者が会った時には、気がつかなかったが、心労によるもので、医師は組合の仕事に関わることを禁じた。

 見舞いに訪問した人によると、

 「目が窪んで生気なく、ゾッとする表情だった」

 という。

 六月三日、債権銀行委員会が、バネスパ本部で開かれた。それにコチアから片山が出席、再建計画を提出した。それは、

 「急場を凌ぐためのニュー・マネー六、〇〇〇万㌦の融資」

 「負債を十数カ年払いに延長する」

 「その条件は、利子を価値修正つきで年六㌫にする」

 …等を要請していた。

 筆者には、ひどく非現実的なものに思えた。そこで、一審議役(二世)に意見を求めてみると、こんな答えが返ってきた。

 「委員会が、これを受け入れなければ、コチアが潰れ、債権銀行に大きな損失が出る。ほかの組合の倒産、パニックも誘発する。委員会は受け入れざるを得ない」

 これが、大方の役員の観方らしかった。

 しかし銀行側が、こんな話を承知する筈はなかった。すれば、融資用の原資の調達コストを下回り、完全な逆ザヤになる。

 また、債権の回収が不能になれば、コチアを潰して、取れるものは少しでも取り、不足分は損失として計上するであろう。それが銀行のやり方である。

 果たせるかな、一週間ほどして、委員会はこのコチア救済問題を、連邦政府にたらい回ししてしまった。

 一方で、バネスパの総裁が、

 「委員会の弁護士が、コチアの経営陣の入替えを研究している」

 と、取材記者に漏らした。

 同時期、一委員が別用でコチアの本部を訪れた折、何気なく、

 「審議役と理事の全員が、身を退く必要がある」

 と告げた。

 いずれも非公式な辞任要求である。

 前記の一審議役の意見は外れたのである。

 「ほかの組合の倒産、パニックも誘発する」という部分も当たらなかった。

 非日系の小さな組合の中に、経営が行き詰まる所が二、三出ただけであった。パニックも起こらなかった。

 

 呆然、激怒、殺気…実力行使

 

 一方、コチアの組合員の大部分は、デフォルト発表後しばらくは、事態をよく呑み込めずにいた。彼らは、組合の財務の実情を知らされていず、何のことかピンと来なかったのである。

 しかし、それが次第に判ってくるにつれ、呆然とし、次に激怒した。

 その組合員に対して、審議役や理事が各地方に出張して、説明会を開いた。が、逆効果に終わった。

 説明の内容が説得力を欠き、何よりも、その役員たちが頼りない印象を与えたのだ。後から、

 「アレでも役員か!」

 「話にならん!」

 と、罵り声が上がった。

 しかも同時期、以前から滞りつつあった出荷物代金の支払いが、完全に止まってしまった。これは、特に奥地型の生産物の場合、打撃が大きかった。

 丁度、穀物の年に一度の収穫を、組合のサイロに納めた後だったのである。

 非受領分の比率は、組合員によって異なったが、全額という人もいた。全体では六、〇〇〇万㌦相当といわれた。

 被害者たちは狼狽した。

 が、直ぐサイロの前にトラクターを並べ、バリケードを張った。内部にある自分たちの出荷物を守るためであった。

 それが、六月十日頃から北パラナで始まった。たちまち他州にも広まった。(つづく)


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