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ブラジル日系社会=『百年の水流』(再改定版)=外山脩=(368)

2026年3月26日


 しかし、アノ時、なんで、あんな馬鹿なことをしてしまったのか、自分でも、今もって判らない」

 この合弁の相手側は数カ月後、倒産した。組合は土地を失った。二、〇〇〇万㌦と評価された土地だったが、戻ってきたのは二〇〇万以下であった。

 いとも簡単に一、八〇〇万以上の金が吹っ飛んだのである。

 末期的症状は、まだ絶えなかった。

 四月一日から、新しい執行理事会がスタートしたが、今度は、その理事会が機能しなかった。

 まず、新専務理事が一切の書類への署名を──ただ一通を除いて──拒否した。専務になって財務の内情を知り、

 「こんな酷い状態になっているのなら、専務など引き受けるのではなかった!」

 と、怒鳴り散らしていたという。

 では、他の理事たちは、どうしていたろうか?

 彼らは、日本からの資金協力の決定報を待って、責任が伴うポストから逃げ回っていた。

 また「三月の総会前に出回った怪文書で、女性問題を暴露された組合トップは、仕事も手につかず惑乱状態にあり…」仕事が手につかない有り様だった。

 そのうち機能しない理事会の中で、一人実務を切り回す人物が現れた。幹部職員出身、理事としては二期目であった。筆者は、これに会って話を聞いたが、

 「コチアの現在の銀行債務は六億数千万㌦、その他を含め八億数千万。

 それを処理する資金が要る。日本政府に二億をバンコ・ド・ブラジルの保証なしに出させる。残る六億数千万は、政府(連邦、州)から無担保で引き出す」

 と途方もないことを言う。しかも、

 「人員整理も進めており、従業員をもう三、〇〇〇人くらい減らす。今日も何人切った。今月に入って何百人…」

 という様な話もする。

 結果から言えば、この資金繰りは実現しなかった。

 人員整理は、解雇に必要な資金がないことが判り、クビにした相手を、宙ブラリンの状態で放置してしまった。

 組合員の間には、

 「どうも、今度の役員たちは小学生がウロチョロしているようだ」

 と嘆く声が流れていた。

 筆者は、その頃──他に転職した──副理事長の後任になった人物(二世)に電話をかけたことがある。が、悲鳴にも似た金切り声で、

 「我々は、やりたくて役員になったのではない。組合のためにやっているのだ。

 コロニアのコチアではないか。邦字新聞は、何故あんな風にコチアのことを悪く書くのか!」

 と叫び続ける。女性のヒステリーそっくりだった。

 (同時期、邦字新聞は、コチアのことを記事にする様になっていた)

 この頃から筆者は(自分は、かつては、コチアの役員といえば、万単位の人間の中から選び抜かれたのだから、余程優れた人材だろう…と、思い込んでいた。しかし実際は、ただの人間が、その任についていた。今もそうである…)と、気づくようになっていた。

 そのように見ると、霧が晴れるように、総ての疑問が解けてくるのである。次の様に。──

 (そういえば、幹部職員から選出された理事の多くは、この三年間、理事らしい仕事は何もしていず、やったのは自分たちの報酬をトンデモナイ額に引き上げるという一事だけだった。審議役や監事も、それを見逃して来た)

 (そういえば、理事会は、外部から三人のコンサルタントを雇い入れ、高額の報酬を払っている。政府機関との交渉が、彼らに対する委託業務という。が、それは、理事の仕事である。が、どの理事にも、その能力がないことが判り、外部から雇い入れたという)

 (そういえば、副理事長をしていた人が、サンパウロ市の配給局長になったものの、数カ月でお払い箱になった…)

 (そういえば、組合トップの某は、机の上に書類を山のように積み上げているが、それを減らすことが一向にできないそうだ。書類の整理すらできていないという。(つづく)


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