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ブラジル日系社会=『百年の水流』(再改定版)=外山脩=(364)

2026年3月20日


 この融資は無担保で、一部(八〇〇万㌦)が、オランダ経由で米国に送金されていた。それが、米国から再びブラジル国内に還流、その政治家の手に渡った、という。

 当時、バネスパに限らず州立銀行は、どこも政治資金づくりの道具にされていた。

 バネスパは、やがて潰れるが、その筆頭債務者はコチアであった。

 高野は、右の疑惑をこう否定する。

 「(バネスパからの融資の)原資は、米国から導入することになった。が、その米銀が要求する金利が、ブラジルが、ああいう状態であったから、非常に高く、中銀が決めたリミットを越していた。

 それでも、国内資金よりは安かった。そこで、その超過分をコストとして認めることになった。

 そのコスト分を、バネスパがオランダ経由で米国に送った。ただ、八〇〇万という様な数字ではなかった、と記憶している」

 これであると、超過利子分の送金ということになる。

 しかし、当時のコチアが、政治資金も使わず、この様な額の融資を、バネスパに承知させることが、果たして出来たのだろうか…筆者には疑問であった。

 が、この疑問は直ぐ解けた。実は、この融資交渉は、コチア出身の日系の腕利きの金融ブローカーが仲介しており、コチアはコミッソンを払っていたのである。

 コミッソンは、一回の取引について数㌫であったという。七、五〇〇万㌦と繰り延べ時の一億三、五〇〇万、計二億一、〇〇〇万の数㌫であるから、少ない額ではない。しかも、どう使おうと勝手である。仮に、バネスパに影響力のある政治家に渡そうとも…。

 筆者は、そのコミッソンの率を知る元役員に、こう聞いてみた。 ──二㌫?

 「…イヤ、そんなモノでは…」

 ──三㌫?

 「…イヤ、もっと……」

 ──四㌫?

 「…」

 ここで追及を止めたが、相手の表情を見ていると、もう少し上の様な感じもした。

 バネスパ以外にも「コチアと付き合っていた銀行」は多かった。

 当時、ブラジル経済は、なにもかもが狂っていたが、銀行もリスクが高まっているのを承知の上で、高利益を追うところが少なくなかった。

 「貸した相手が潰れれば、損害が出るが、その直前に回収すれば、大きく儲かる」

 という、いわば賭けのような気分で…。

 これも、コチアを延命させていた。

 (前章で登場願った)BCNの大谷イリネウの場合は、ある時期からコチアへの融資は危ない、と感じていた。運転資金の融資を、次から次へと申し込んでくるのである。

 そこで試しに、わざと利子を上げてみると、それでも借りて行く。危ない証しであった。

 が、上司は融資の継続に積極的であり、コチアの財務部門の幹部職員も「日本政府から資金が来る」と言うので、貸し続けていた。

 

 依然気付かず

 

 一九九二年六月から七月にかけて、筆者は、サンパウロ新聞の経済欄に、五回に渡り「崩壊進む日系農業界」という記事を書いた。(筆者はこの頃、フリーのジャーナリストをしていた)

 これは両組合の危機がコロニアでは表に出ず、ためにサンパウロ日本総領事館が、資金協力の申請に対し、

 「本当に危機にあるのなら、もっと邦字新聞が騒ぐ筈だ」

 と訝しがったためである。

 東京の外務本省も同様で、交渉に支障が生じていた。

 実際、邦字紙には何も出なかった。邦字紙は、農業界からは遠ざかっていた。

 筆者は、再建への協力の意味で、右の寄稿をした。

 その時はコロニア一般も、これで、ある程度、気づいてくれるだろうと、期待もしていた。

 記事ではコチア、スールの実情を、そのまま表現することは出来ないから「日系農業界」という言い回しを使ったが、注意深く読めば、組合も含めていることは解るだろう…と予想していた。

 ところが、誰かが気づいたという様子はなかった。

 そこで試しに、部分的に口頭で知人に話してみた。が、誰も、真面目に耳を傾けようとはしなかった。

 コチア、スールの信用は、まだ、それだけ強力であった。 

 (悪くすると、誰も心の準備をしていない内に、大地震が襲う…それに似たことになるのではないか…)とは思ったが、名案は浮かばなかった。

 

 末期的症状、頻発

 

 企業が瓦解する時は、よく安手の小説に出てくるような末期的症状が顕れ、世の嘲笑の的になることがある。

 コチアの場合、一九九三年に入ると、その種の症状が頻発した。

 中でも世間を呆れさせたのが、理事報酬問題である。

 この件では、最初、

 「理事連中が、法外な報酬を取っている。平の理事で一万㌦、三役は一万五、〇〇〇も…」

 と、一部の組合員が騒ぎ始めた。(つづく)


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