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ブラジル日系社会=『百年の水流』(再改定版)=外山脩=(370)

2026年3月28日


 (しまった!)と、立ち上がったが、ゼルヴァジオの方は「まだ話がある」という表情である。その時初めてできた間合いを捕らえて、

 「大口のクレドールに、負債支払い時期の延期を交渉しているそうですが、向こうが承知しなければ、どうするのですか?」

 と質問すると、一寸、クビを傾げて、

 「風の吹くままさ…」と軽くいなす。

 辞去して受付けの側まで戻って訊ねると、案の定、理事は皆、外出したという。

 しかし、このことで、どうやら状勢は、こちらが読んでいる線に近いと勘が働いた。

 そこで翌日──前記した──一人実務を切り回している理事に電話を入れると、

 「二十一日に来てくれ」

 と言う。

 ところが当日、本部へ行くと、本人は現われず、若い女性の職員が出てきた。しかも、この日、ポルトガル語と日本語両方の新聞やテレビの会見も予定しているという。一斉発表というわけだ。

 筆者にすれば、それまでの配慮や協力を、一言の挨拶もなく踏みにじられたわけで、カッと頭に血がのぼった。

 前記の理事の応対を強く求めたが、出て来ない。審議役が一人(二世)出てきたが、これでも役員か……と驚くほど幼稚な男で、話にならない。

 やむを得ず引き返した。

 翌日の新聞やテレビは「コチア産組の瓦解」を大きく報道した。内容は一言で表現すれば一方的な債務不履行=デフォルト=であった。六年前、ブラジル政府がやったアレである。

 なお、組合側は、

 「コチアは、日本政府から二億㌦の資金協力を受ける交渉をしている。これはブラジル政府(バンコ・ド・ブラジルの意味)の保証が必要であり、蔵相にそれを頼んでいるが、実現していない」

 「コチアは財務再建のため、組合の一部施設と車輛の五〇㌫の売却を計画している」

 と、つけ加えていた。

 遂に、コチアの瓦解が表面化したのである。

 イラスト入りでタイタニック号の沈没に譬え、一面ほか数頁を、関連記事で埋め尽くしたポ語新聞もあった。 

 なお、この記者会見、当然、組合トップがやるべきところを、ただの女性職員がやったことが、テレビ放映で判り、それを観た人々を呆れさせた。

 

 犠牲者、続々と…

 

 右のデフォルトでは、直後から犠牲者が出始めた。最初が、債権銀行の対コチア融資の担当者たちであった。

 BCNの大谷イリネウは、丁度、休暇をとっていた。

 「そこに、銀行から電話があって、もう出勤する必要はないと言われた」

 という。クビの宣告である。さらに嫌な疑いをかけられた。

 「コチアと組んでいたのではないか?」

 と。融資した金の一部を、裏で受け取っていたのではないか…というのだ。融資残高は三、〇〇〇万㌦を大きく超していた。

 ほかの債権銀行でも、同じことが起こっていた。

 「バンコ・Rでは、融資担当の課長と役員が即刻、クビになった」

 「バンコ・Bでも、誰某が…」

 といった類いの話が飛び交っていた。

 債権銀行が八十四行という驚くほどの数であることが判ったのは、この時である。

 それに対するコチアの負債総額は六億九、〇〇〇万㌦と発表された。

 因みに、日本からの進出組の銀行の中にも、融資していたところがあった。が、早い段階で何事かを察知していた。

 その頃、筆者は、その進出組の幹部に二度呼び出された。話題は「コチア」だった。

 後で判ったことだが、この銀行は、瓦解の表面化以前に、債権を総て回収してしまっていた。

 コチア担当者のクビが飛んだのは、フォルネセドール(資材・サービスの供給業者)の場合も、同様だった。

 フォルネセドールの数は余りに多く、集計できぬということであったが、負債額は計四、〇〇〇万㌦を越す模様だった。

 犠牲者は、組合の従業員からも出た。理事会はこの頃八、〇〇〇人台まで減らしていた従業員を、さらに何十㌫か解雇する、と発表した。

 

 ゾッとする表情

 

 五月末から六月初旬にかけて、債権銀行が委員会を組織した。

 大口債権行のバネスパ、バンコ・ド・ブラジル、BNDES=経済社会開発銀行=(以上、政府系)、BCN、バンコ・ナショナル、バメリンドス(以上、民間)、バンコ・オランデース(外資)の七行の代表が、そのメンバーとなり、筆頭債権行のバネスパが幹事役となった。

 この間、六月一日、片山会長がブラジリアへ飛びカルドーゾ蔵相に救済を陳情した。

 片山は、従業員の給料支払いにすら難渋している実情を訴え、運転資金の緊急融資を求めた。(つづく)


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