安倍元首相との思い出=本橋幹久元県連会長

本橋幹久さん(86歳、鳥取県出身)は、安倍晋三元首相が来伯した2014年8月当時、ブラジル日本都道府県人会連合会(県連)の会長を務めた。当時の県連では日本政府に対する要望書を作成し、安倍首相へ手渡す準備を整えていた。本橋さんに安倍首相来伯時の様子を振り返ってもらった。
県連は翌年(15年)の日伯外交関係樹立120年に向け、より一層のブラジル社会への貢献と日本との関係深化のために要望書を作成。要望書では日系社会のさらなる発展と各県の地域経済活性化に寄与する事業を提案した。
県連が日本政府へ行った要望は2つ。(1)県受入れ留学生・研修員制度の強化(2)「第18回フェスティバル・ド・ジャポン(日本祭り)=日伯120年の絆」での「ジャパン・プレゼンテーションと日本地域産業文化紹介展」の実施だ。
(1)では、従来の県費留学生・技術研修生制度に加えて、各県のブラジル対応窓口として活動できる人材の育成を行うことを求めた。当時の安倍内閣の地域活性化策に即して、各県及び各地域の産物の輸出、中小企業の海外進出、観光事業の広報など将来的に日伯両国間で可能な事業を推進し、ブラジルの各県人会と日系社会が活性化する相乗効果を期待した。
(2)では、県連主催の日本祭りへの具体的な支援要望をまとめた。同祭開催総予算の20%はサンパウロ州とサンパウロ市が公的支援として支出しており、「日本政府も顔が見える形で参加してほしい」との思いを示した。また、日本祭りで実施する各県物産展や文化展を、日本の各県が実施する地域活性化政策と関連させて欲しいなど具体的な支援要望も明記した。
要望書は福嶌教輝在サンパウロ総領事(当時)から安倍首相に直接手渡してもらえるよう陳情していた。しかし、安倍首相はブラジリアからサンパウロ市のコンゴーニャス空港に到着してすぐにイビラプエラ公園内の「開拓先没者慰霊碑」に直行する予定だったため、福嶌総領事が安倍首相に要望書を手渡せるかは不明だった。
安倍首相夫妻が「開拓先没者慰霊碑」に到着すると、本橋さんは県連会長として慰霊碑への献花に立ち合い、安倍首相夫妻を隣接する日本館まで案内した。その際、要望書について話しかけたところ、安倍首相は「すでに聞き及んでいます」と明言したという。
本橋さんは「コンゴーニャス空港から直行で来られると聞いていましたが、我々の要望書は福嶌総領事の配慮で、事前に安倍総理に渡されていたのでしょうね」と振り返り、「私個人の思い出としては、慰霊碑に献花する時、普通なら花輪が碑に置かれているはずなのに、その時はなぜか、献花用の花束が2つありました。安倍首相は奥様と一緒に献花されると思っていたら、別々に献花されたので慌てて私も安倍首相に寄り添いました」と語った。