ブラジル マンダカルー物語=黒木千阿子=(16)
さあ、いよいよ仮住まいから、新しい住まいに引っ越しする朝、窓を開けてみると、何だいもの荷馬車が列をなしていました。若者や子供達がやって来て、無言で部屋の物を運び出します。
小さな子どもまでが手伝いに来て、私の本を一冊ずつ頭の上にのせていきます。
こうして、トントンちゃんを抱っこした私が、今度の我が家の家の前に立った時、信じられない光景に我が目を疑いました。
バイア―ナ=バイア州出身の女性=たちが歌いながら家を掃除しているのです。屋根を直しているのは、エヴェラルド、犬小屋を作っているのはデデウ、歯医者のドトールロベルトは、電気屋さんになって、シャワーの工事。
中に入ると誰かの心づくしでしょう。
台所にはテーブルがあり白いレースの上に可愛い野の花が飾ってありました。
そうこうしているうちに、焼き立てのケーキとアセローラ(ビタミンCのサクランボに似た木の実)のジュースが届けられました。
ふと振り向くと、家の下の方からドーナ・マルレーニと娘のヤーラとジャックリーニが水をいっぱい満たした水瓶を頭にのせてやってきました。どれ一つ私が頼んだことではありません。
その時、そんな情景を眺めていたジョンじいさんが、私に言いました。
「セニョーラ、こんな美しい引っ越しは今まで見たことがない。空から神様がご覧になって喜んでいらっしゃる。
マンダカルー物語2
四、マンダカルーの里の朝
マンダカルーに住み着いてからというもの、この里の朝がすっかり気に入ってしまい、夜明けを待てずに早起きをする習慣がついてしまいました。
とにかく、マンダカルーの朝ほど素晴らしいものはありあせん。その朝を思う存分生きたかどうかで、一日の価値が決まるのです。
そう、暑い国のそのまた暑い州、バイーアですから、つかの間でも清々しい朝を失うことは本当に勿体ないことなのです。