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ブラジル マンダカルー物語=黒木千阿子=(14)

2025年7月22日

 一度こじれた話はなかなか修復が難しいもので、とりあえず犬の坊やを返してもらうことで話を打ち切り仮住まいに戻りました。

 地の果てジェキエーと人々が呼ぶバイア州のこんな小さな町でジャポネーザに残されたものは、猫のトントンちゃんと犬の坊やだけ。

 今までの苦労はいったい何だったのか。

 私の気分は、まるで底なしの沼に落ち込んでいくようでした。

 その夜のこと。

 静寂が当たりを包んで、頭が冴えてきますと、さすがに腹の虫がおさまらず、アントーニオをやっつける何か良い手だてがないものかと思案に思案・・・・。

 さて翌日には、ジャポネーザが裏切られたぞ、という話がアッと言う間にマンダカルーの里を走り抜けて、町全体が騒然となったのです。

 さっそく私は夕べのうちに立てた作戦司令を発しました。

 この作戦は、果たしてうまくいくかどうかと考えておりましたら、やがて私の指令を受けたイタリア人の材木屋の主人が陸軍中尉の軍服姿の人を連れてやってきました。

 否、それだけではありません。その後ろには材木屋の息子さんとその仲間たちがぞろぞろついてきたではありませんか。

 さあ、いよいよ私の脚本による復讐劇が始まりました。

 アントーニオの家を取り囲んだ面々が口々に叫びました。

 「泥棒猫のアントーニオ!」

 「ブラジル人の面汚し!」

 「これから、ジャポネーザのたのみで、この家を叩き壊すぞ!」

 軍服姿の中尉殿と若い衆のおどし文句に怖れをなしたかアントーニオ、気が狂ったように泣きわめいて、

 「家だけは壊さないでくれ!少しずつお金を払うから!」

 アントーニオは、払えもしないくせにこんなことを言いながら、土下座して手を合わせ神にまで哀願したのです。

 「神よ、救い給え」

 こうして、私の腹の虫は少しおさまりました。


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