ブラジル マンダカルー物語=黒木千阿子=(11)
私が食べたい果物の名を片っ端から言うと、山の子供たちは歓声をあげてあちこちに散り、すぐまた歓声をあげながら戻ってきます。
バナナやパパイアはもちろんのこと、マンゴー、ゴヤバ、カジュー、アセローラを手にして。
大きな頭のお化けみたいなジャッカまで担いできた子がいるかと思うと、小さな果物をカカオの葉っぱにのせて持ってきた子や破けたポケットからミカンを取り出す子もいたのです。
でも、私はとっさに叫ばなければなりませんでした。
「椰子の実!」
なぜって、一人の男の子が椰子の木に登って、私の声を今か今かと待っているのを見つけたからです。
ドスーンと音を立てて落ちてきた椰子の実。
待ってましたとばかりに、ネンネが短刀で穴を空けます。
ゴク、ゴク、ゴク、皆が回し飲んでもジュースはまだ中でポチャ、ポチャと音を立てていました。
こんなふうに山のお弁当をたらふく食べて、おなかがいっぱいになりました。と、その時、子供たちが一斉に言いました。
「帰ろう!」
彼方の空に黒雲が現れたのを目ざとく見つけたのです。
私たちは走りました。おなかで山のお弁当は揺れます。
それがおかしいと言っては笑い転げ、また立ち上がって必死に走るのです。
しかし、スコールの足にはかないませんでした。ザーとやって来た雨。
「もうだめだよ。濡れてもいい!」
そう言って観念した時、突然頭の上に雨よけの屋根が現れました。
大きなバナナの葉でした。子供たちが私を濡らすまいとしてくれていたのです。
緑の屋根は、私が走れば走り、止まれば止まり、笑えば笑う、そんなおかしな屋根でした。
そんな時、小さな女の子が、私がジャングルで失くしたお守りの鈴をチリン、チリンと鳴らしながら手渡してくれました。
山の子どもたちには、生来凄い問題解決能力があって、不可能を可能にするそんな不思議な力を備えていると、つくづく感心させられましたが、これもまた自然と共生していく中で身に付けた偉大な知恵のなせるわざなのでしょう。