ブラジル マンダカルー物語=黒木千阿子=(12)
町の我が家に帰る日が来ました。
お別れの挨拶をしますと、
「もっとここに居たらいいのに。あなたがいなくなったら、この山が寂しいというに違いない」
マリーのお父さんが目をしょぼつかせて、そういいました。
山に生まれ山で暮らした60年の間、堂々と生き続けて来たゴッドファーザーも、静寂な山の淋しさや哀しさは辛いものだったのでしょう。
別れを惜しんで皆がついてきました。
その中に一匹の黒い子豚がいました。
短い間でしたが、私は黒ちゃんと名付けてかわいがりました。
豚と言っても犬と同じで、可愛がれば可愛がるほど懐いて、おなかを見せて寝転んだり、私の膝に頭をのせて眠ったり、服を引っ張って遊んだり、呼べばすぐ走り寄って来たり、といった具合。
その黒ちゃんが、当然のようなふりで、トコトコついて来るのです。
坂の上で皆に最後のお別れをしましたが、黒ちゃんだけはただひたすら私について来るのです。
ウィルトンが駆け下りてきて、家に帰れ!と蹴飛ばしても言うことを聞きません。けっきょく黒ちゃんはウィルトンに抱きかかえられて山に帰って行きました。
ブンギャー、ブンギャーとなきわめく黒ちゃんの声が、夕焼けの空に響き渡り、だんだん遠のいていきました。
「黒ちゃーん、また来るからね!」
山に向かって手を振っているうちに、なんだかとても哀しくなってきました。別れというものは、たとえ相手が豚であってもこんなに辛いものなのですね。
三、引っ越し
それから半年後、仮住まいから、私が住むことになっているアントーニオの側の離れに戻ることになりました。
ところが、ところがです。