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《記者コラム》選挙キャンペーン最前線の裏側=(3)=自分を前面に出して選挙に臨め!=大浦智子

2022年8月3日

偶然、他党の大会に潜入

PSBで活躍する身体障がい者の人々とジャロール氏(左から二番目)
PSBで活躍する身体障がい者の人々とジャロール氏(左から二番目)

 筆者が補佐するサンパウロ州議員立候補者アブドゥルバセット・ジャロール氏(32)は、選挙への立候補もブラジルの政界に急接近するのも初めてのことで、戦略チームの組織からその動かし方まで、まさにすべてを手探りでやってきた。
 文字通り、「走りながら考えるしかない」日々である。ブラジル社会党(PSB)から出馬するということで、参加する党大会は同党が中心だが、「党が変われば色変わる」現場を目撃する機会があった。
 6月25日、リベルダーデ地区でジャロール氏が講演の仕事を終えた後、時間があるので客家プラザ内の台北文化センターを訪ねようということになった。客家プラザの正面入り口に到着すると人で込み合い、ふと立て看板に目をやると、政党の一つポデモス(Podemos)の党大会が開催されていることが分かった。
 「自分の書いたスケジュールにはなくても、これはマクトゥーブ(アラビア語で“既に書かれている”の意)」と、ジャロール氏は何か直感が働いたようで、台北文化センターよりも先にポデモスの党大会に立ち寄ることにした。

サンバ隊が盛り上げるPSBの党大会
サンバ隊が盛り上げるPSBの党大会

 会場に入るとイベントホールは既に満員で、来場者向けの簡単な軽食とドリンクが並び、その横には冊子の束が積まれていた。それは、無料配布の立候補者への選挙マニュアルだった。シンプルに分かりやすくまとめられ、携帯電話からアクセスして勉強できるQRコードもプリントされていた。新人候補者にはとても役立つマニュアルの印象だった。
 PSBを中心に選挙戦略の足がかりを得ようとしてきたが、同党では、立候補者への基本マニュアルのようなテキストはなかった。だからこそ、身一つで人から人へと渡り歩き、様々な情報や協力者探しに奔走してきたジャロール氏で、「こんなテキストが用意されていたら便利だったね」と、党によって候補者への指導に違いがあることを実感した。

党派を超えて選挙対策をアドバイス

 実は、ジャロール氏がポデモスの党大会に遭遇した時、不思議な導きを感じたのには理由がある。同氏は選挙対策に関して右も左も分からなかった頃、以前はPSBに所属し、現在はポデモス所属の市会議員の補佐役の男性から、同市会議員のオフィスに招かれて選挙までの足取りを数回にわたってアドバイスしてもらっていた。
 PSBは左派、ボデモスは右派、いずれにしても、異なる党のメンバーが、敵ともいえる他党の立候補者に毎回3時間以上にわたって選挙対策のイロハを手ほどきしてくれていたことに、ブラジル特有のおおらかさや親切心を垣間見たものだった。
 この男性は、「党ではなく、自分を前面に打ち出して選挙に臨みなさい。いつ他の党に移籍しても票が取れる候補者であることが重要」と強調した。

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右派の党大会に現知事も駆けつける

 この客家プラザでのポデモスの党大会には、ロドリゴ・ガルシア現サンパウロ州知事(ブラジル社会民主党/PSDB)が応援演説に駆けつけていた。右派の結束力を高めようという気概は明らかである。
 対するPSBはマルシオ・フランサ元サンパウロ州知事が同党及び左派の顔の一つで、PSDBから移籍したジェラウド・アルキミン元サンパウロ洲知事もPSBからの副大統領誕生に期待が寄せられる。ガルシア現サンパウロ州知事が顔を出すということはほぼありえない。そして、PSBの党大会では「フォーラ・ボルソナーロ(ボルソナーロは去れ)」が合言葉のように叫ばれる。
 党員の雰囲気も異なり、PSBは社会のあらゆるジャンルの人々に開かれた世界を作るのがイデオロギーで、教員、医者、起業家といった社会で認められやすい肩書の人だけでなく、身体障がい者、移民や難民、女性、LGBTといった保守主義の中では社会的にマージナルな立場に置かれがちなメンバー全てが主役に持ち上げられる。
 党員の顔触れはカラフルな印象で若者も目立つ。サンバ学校のメンバーおり、党大会では会場に響き渡るバテリアで盛り上がりを見せるのはさすがにブラジルならでは。ポデモスの党大会もカラフルなスポットライトや威勢の良い掛け声で勢いは良いが、来場者の顔ぶれはPSBよりも統一感のある印象だった。
 「どの党でも選挙キャンペーンの基本は同じ」と先の男性はいい、覚えたことは次回の選挙でも活かすことができると新人候補を励ました。


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