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小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=114

2024年3月27日

 家の前に車を停め、内部を覗いた八重子は、まだ帰っていないと呟きながら入口に置いてあった一束の花と線香をもち、再び車に入った。
「きっと山で待ってるんだわ。行きましょう」
「家に誰もいないんですか」
「息子はまだ学校から帰っていないみたい」
 かつて千江子と京の町から奈良の村まで一緒して、息詰るような恋情に胸を締めつけられた矢野ではあった。今、その千江子と瓜二つの八重子と同乗していても、もはや往時のような感情は湧いてこなかった。そのことが矢野の気持ちを和やかにした。
「お母さんはいい人だったね」
「私、母の生き方をよく知らなかったんですけど、帰ってきてく...

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