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小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=155

2024年6月13日

「蛍火は、死人の人魂だって聞いたけど、ほんとなの?」
「いや、そんなこと、あるもんか」
「わたし、恐い」
 良子は信二の腕にすがった。籾を背負っていた信二は少しよろめいたが、彼女が自分に寄り添ってくれたのは嬉しかった。
「あら、また一匹飛んできたわ。さっきの蛍と同じ方向に下りてゆくわ」
「蛍同士が恋をしているんだよ、きっと」
「あら、嫌だわ」
 そう言う彼女の気持ちを計りかねた。水車小屋の中は糠の匂いが立ち込めていた。天井に支えられた丸太の杵が、動作の鈍い動物のようにバタン、バタンと上下運動をしていた。信二は上死点に達した杵の握りを手際よく止め鈎に引っ...

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