滋賀=湖南市に県初の夜間学級=外国籍生徒の学び直しの場に=《下》学齢過ぎた外国人にも教育の機会

実は入江さんは、試験勉強を始める前から夜間学級の存在については知っていた。「夜間学級があれば、そこに通って日本の中学校の卒業資格を取り、正式に高校に進学できるのに」と思いながらも、当時の滋賀県にはその受け皿がなかった。ただ、県が夜間学級設置に向けたニーズ調査を始めた時期でもあり、入江さんは配布されたアンケートにも記入。「もし夜間学級があれば入りたい」と強い思いを綴ったという。
中学校卒業程度認定試験に向けた学習を続ける傍ら、入江さんは、青木教頭がかつての教え子たちとともに立ち上げた国際交流グループ「カリーニョ」の活動にも参加していた。ボランティアとしてポルトガル語を教えるなど、多文化交流の現場にも積極的に関わり、自らの経験を活かしながら地域社会とつながってきた。
そんな入江さんは、夜間学級で学べることを心から楽しみにしている。4月7日の開設式では、恩師である青木教頭とも再会し、6年の歳月を経てふたたび教師と生徒の関係に戻った。「夜間学級で勉強や仲間づくりを頑張りたい。卒業後は日本の高校、大学に進学して、学校の先生か心理学者になりたい」と語る入江さん。その胸には、自身と同じように外国にルーツを持つ子どもたちを支えたいという強い思いがある。
入江さんは昨年からは湖南市の母語支援員としても活動しており、市内の小学校でブラジル人をはじめとする外国籍児童やその保護者の通訳などを担っている。夜間学級が始まった今も、午前中はこの仕事を続けており、学びと実践の両面で地域社会に貢献していく姿勢を崩していない。
入江さんに日本語を教えていた経験を持つ青木教頭は、「彼女の『学びたい』という夢が叶い、感激しています。彼女と同様に『学びたい』という思いで集ったさまざまな年齢やルーツの人たちと共に、安心して学べる夜間学級を目指します。そして、一人ひとりの思いを大切にし、教師も共に学び成長できる場にしていきます」と語る。
また、湖南市における夜間学級の設置に関する有識者会議の委員を務めた日系ブラジル人3世の上森秀夫氏(湖南市内の人材派遣会社インフィニティCEO)は、「日本で暮らしながら、日本の学校で学びたいと思っている外国人は数多くいます。そうした人たちが実際に学べる夜間学級が湖南市に開設されたことは、とても意義深いことです。素晴らしい機会をつくってくださった湖南市や滋賀県に心より感謝申しあげます」と、その意義を強調した。
文部科学省の調査によると、外国籍の生徒で日本語指導が必要なケースは全国的に増加しており、地方でも教育機関の整備が急がれている。そうした中、湖南市の夜間学級は、公立中学校に併設され、通常の学校と行事などを通じて交流できる仕組みとなっている。
これにより、夜間学級が身近な「学び直し」の場と感じられ、生徒たちの言語や学習習慣の壁を乗り越えようとする姿勢が地域に新たな刺激を与え、学齢期を過ぎても学ぶチャンスがあることを、若い世代にも伝えるモデルとして期待されている。(終/文責・大浦智子、取材協力・湖南市立甲西中学校夜間学級)