日伯外交樹立130周年記念連載=第5回=林大使特別インタビュー:未来を見据えつつ、常に過去に敬意を
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駐ブラジル日本国大使 林禎二氏「ブラジルと日本の関係は今後ますます強固で実り多いものに」
ブラジリアの大使公邸にて、林禎二・駐ブラジル日本国大使は、両国にとって象徴的な節目である「日伯修好通商航海条約」締結130周年についてをインタビューした。執務室の背後には、日本とブラジル両国の国旗が並び立ち、両国民の絆と相似性を映し出している。外交儀礼を重んじる高位の外交官であっても、ブラジルの人々の温かな人間味には抗えなかったという。3年前に着任した際には、形式ばらぬ歓待を受け、瞬く間に心を開かれたと振り返る。
3月7日に在ブラジル日本国大使館で、ブラジル日報(Diário Brasil Nippou)の単独インタビューに応じた林大使は、過去から現在へと続く日伯関係の歩みを振り返り、数々の協力事業を熱を込めて語った。鉄鋼のウジミナスや製紙のセニブラといった往年の国家的プロジェクトは、日本の技術とブラジルの資源の結合から生まれ、今日も現役で稼働し続け、自動車産業をはじめ多くの産業に貢献していると強調した。
農業分野では、JICA(国際協力機構)の協力によるセラード開発に触れ、穀物生産が500%増加した実績を紹介。さらに現在は、劣化牧草地の再生プロジェクトが進行中であり、ルーラ大統領が訪日に際して優先課題として掲げる見通しだと語った。
環境分野についても林大使は力を込める。2025年11月にベレンで開催予定のCOP30を見据え、両国協力の重要性を強調。日本の人工衛星による森林破壊の監視や、トメアスー発のアグロフォレストリー「SAFTA」の普及を例に挙げた。また2023年に日本がアマゾン基金へ1,400万レアルを拠出したことを紹介し、協力拡大の意欲を表明。米国がパリ協定を離脱する中で、ブラジルが地球環境問題でリーダーシップを果たす必要性を説いた。
未来志向の話題では、若者の役割を強調。2026年までにラテンアメリカから千人の留学生を日本へ招く目標を掲げたほか、世界最大規模であるブラジル在住の日系人社会(約270万人)が両国をつなぐ架け橋として果たす役割を高く評価した。
DBN:今年はすでに大きな記念の年となっています。ちょうどこの3月、ルーラ大統領が名誉招待客として日本を訪問します。そうした協力の観点から、大使のお考えでは、両国の商業・政治関係の進展にとって戦略的に重要な点は何でしょうか。
林禎二大使:
2025年のこの記念の年には、両国間でさまざまな行事、訪問、交流が予定されています。その中でも最も重要な行事は、3月末のルーラ大統領の訪日と、6月の佳子内親王殿下のブラジルご訪問です。ルーラ大統領は「第一カテゴリーの国賓」として迎えられます。(注:大使とのインタビュー後に訪日が実現)
第一カテゴリーとは何を意味するのか。日本では、毎年ただ一人の国家元首だけがこの第一カテゴリーで迎えられるのです。そして本年、その栄誉はルーラ大統領に与えられることとなりました。さらに申し上げれば、この第一カテゴリーでの国賓接遇は実に6年ぶりのことです。なぜかといえば、天皇陛下がパンデミックにご配慮され、2019年以降はこのカテゴリーでの国賓接遇を中止されていたからです。その再開にあたり、私たちはブラジル、そしてルーラ大統領をお招きすることにしました。
現在の国際情勢は非常に不安定です。ウクライナ戦争やガザ情勢、新しいアメリカ大統領の登場など、予測不能な出来事が重なっています。だからこそ、このタイミングでルーラ大統領を日本にお迎えするのは極めて意義深いと考えています。ブラジルとは、民主主義、法の支配、平和追求といった共通の価値観を分かち合っています。この訪問を通じ、ブラジルという日本にとって極めて重要なパートナーとの絆と協力を、さらに一層強化したいと思います。
DBN:日本はこれまでブラジルと数多くの国家的共同プロジェクトを実施してきました。その中で最も象徴的なものを挙げ、簡単に説明していただけますか。
林大使:
一つに絞るのは難しいのですが、1950~70年代にかけて、造船や鉱山、製鉄のIBRÁSや、製紙のCENIBRAなど、いくつもの国家的プロジェクトがありました。私は実際にいくつかの現場や工場を訪問しましたが、今もブラジルの発展に大きく貢献し続けています。
例えば先月、ベロオリゾンテを訪ね、ウジミナスの社員の方々と話をしました。ウジミナスは日本でもよく知られたプロジェクトであり、当時の日本の技術とブラジルの鉱物資源が結びついた協力の象徴です。現在も製鉄所は稼働しており、特に自動車産業を含む多くの産業に鋼材を供給しています。トヨタやホンダといった日本企業も、現地で自動車を生産する際にウジミナスの製品を使用しています。
DBN:セラード開発は、日本政府が支援した最も重要なプロジェクトの一つです。これまで数十年にわたり、どのような具体的成果がありましたか。
林大使:
日本政府は、これまで3千人以上の専門家をブラジルに派遣し、セラード開発に取り組みました。その結果、穀物生産は5倍、つまり500%増加したといわれています。また、10億レアル以上の資金協力も行いました。
現在は次の段階として、エンブラッパと協力し、劣化した牧草地や土地の回復に関する新たなプロジェクトを進めています。これはブラジル農業における深刻な問題であり、アマゾンの森林破壊とも関係しています。したがって、3月末のルーラ大統領訪日時に、この牧草地再生に関する協力をブラジル政府と固める予定です。
DBN:さらに大規模プロジェクトについて伺います。日本政府がブラジル支援分野を選定する際、どのような理念や要素を考慮しているのでしょうか。
林大使:
日本政府はおよそ5年ごとに、各援助対象国ごとの経済協力方針を定めています。ブラジルに関しては、現在、都市問題、モビリティ、環境、自然災害といった分野が重点とされています。
つまり、ブラジル政府や国民にとって「今必要なことは何か」、直面している課題は何かを考慮しつつ、日本の技術をどう生かせるかを検討しています。たとえば日本にとっては食料安全保障が重要です。日本は自給に十分な農業生産ができません。そうした背景から、ブラジル政府や複数の日本の省庁との協議を経て、支援分野の基本方針を決定しているのです。
DBN:COP30が今年11月、ベレンで開催されます。環境分野で日本政府はどのような役割を果たし、ブラジルにどのような期待を寄せていますか。
林大使:
環境や気候変動は日本政府の優先分野の一つです。すでにブラジルとの間で、気候変動に関するいくつかの協力プロジェクトが進んでいます。
たとえば、JICAによる技術協力では、日本の人工衛星やAIを活用して森林破壊を監視しています。数週間から数か月先の違法伐採の発生地点を予測し、その場所に軍や警察を配置する取り組みです。
また、トメアスーのアグロフォレストリー「SAFTA」も象徴的です。農業生産と森林保全を両立させるこの手法を、パラー州内外へ普及させるため、農業省や家族農業省と協議を重ねています。
さらに昨年、日本はアマゾン基金に最初の拠出国として、4億円超(約1,400万レアル)を寄付しました。こうした基盤の上に、気候変動分野での協力を拡大していきたいと考えています。COP30では、特にブラジルに国際的リーダーシップを発揮していただきたい。米国がパリ協定から離脱した今、日本を含む他の国々が連携し、気候変動と立ち向かう必要があります。その中でブラジルが果たす役割は大きいのです。
DBN:現在そして将来の国際社会において、ブラジルはどのような役割を担うべきでしょうか。また、その実現に向けて日本はどのように協力できるでしょうか。
林大使:
国際問題について言えば、今は非常に複雑な状況にあります。紛争の多発、米中間の緊張、気候変動や自然災害などが重なっています。こうした困難な状況の中で、日本とブラジルは国際平和を確保し、自由貿易を維持するために、より緊密に協力する必要があります。
国際秩序の維持も懸念されます。いくつもの国が国際協定を軽視しており、法的な基盤が揺らいでいるのです。だからこそ、法の支配や国際合意の尊重をより強固にしなければなりません。日本とブラジルは価値観を共有しており、両国が協力することで、より平和的で安定し、開かれた国際社会を築いていけると確信しています。
DBN:日本経済についてですが、近月は金利やインフレ率がこれまでにない動きを見せています。日本政府はどのように捉えており、ブラジルを含む世界経済にどのような影響を及ぼすでしょうか。
林大使:
日本は数十年にわたり、金利をゼロ近辺、時にはマイナスに抑えてきました。ところが今年初め、金利は0.5%に達しました。これは過去20〜30年で最も高い水準です。
その背景には「インフレ目標」があります。おおよそ2%の物価上昇率を目指してきましたが、最近の消費者物価は2.8%前後となり、20年ぶりに目標に近づきました。したがって、日銀が金利を0.5%に引き上げたのは自然な流れです。今後も経済や物価、金融情勢を注視しつつ、追加引き上げの可能性があります。
ブラジルから見ると、金利0.5%というのは非常に低く奇異に映るかもしれません。しかし、我々は安定的で適切な経済成長を実現するためにこうした政策を取っています。また日本の財務省や日銀は、G20などを通じて各国政府と頻繁に連携しており、ブラジル政府・中央銀行とも密接に情報交換しています。
DBN:日本社会の高齢化に伴い、中長期的な労働力不足が懸念されています。その点でブラジルは長らく労働力を提供してきましたが、若い世代の日系人に対する就労条件は依然として厳しいままです。4世以降の世代について、柔軟化の見通しはあるのでしょうか。
林大使:
日系ブラジル人、あるいは他国の日系人に対する在留資格制度には二つの枠組みがあります。1〜3世は比較的自由に日本で就労や居住が可能ですが、4世は制度が大きく異なります。
4世の場合、特別な在留資格が与えられますが、基本的には日本語や文化を学ぶことを主目的とし、一部就労の柔軟性が認められる程度です。2023年末、法務省と出入国在留管理庁が条件を一部緩和しました。しかし現状でも依然として厳しいとの声が多く寄せられています。
私自身もこうした意見を踏まえ、日本の関係当局と協議を続けています。現在、昨年末に実施された緩和措置の効果を政府が検証しており、その結果を踏まえて4世以降の在留資格について、さらなる検討が加えられると期待しています。
DBN:昨年5月、岸田文雄首相がブラジルを訪問した際、日本は今後3年間で約1,000人の交流事業を行うと発表しました。その進捗と、2025年におけるブラジルからの研修生に対する展望は。
林大使:
正確に申し上げれば、この「千人」という数はJICAだけでなく、文部科学省や他の政府プログラムを含んだものです。現時点で順調に進んでおり、3年間で1,000人という目標に向け、関連省庁が連携して取り組んでいます。今年もJICAや文科省のプログラムを通じて、多くのブラジル人が奨学生として日本へ渡っています。彼らは日伯の架け橋として重要な役割を担うことになるでしょう。
DBN:130年前に結ばれた修好通商航海条約は、日本人移民のブラジル渡航を可能にしました。現在、世界の日系人の半数以上がブラジルに暮らしています。日本移民はブラジルの発展にどのような貢献をしたとお考えですか。
林大使:
そうです、ブラジルにおける日本人移民は、国外最大の日本人コミュニティです。昨年、私は移民・日系人の人口推計作業に尽力しました。それまで200万人とされていた数字が、最新の試算では270万人に達しました。ブラジル政府は国民の出自を調査していないため、統計学的な推計作業を行った結果です。この数字は日本でも高く評価され、日系社会の存在感が改めて確認されました。
個人的には、日系人がブラジルにもたらした最大の貢献は、日本的精神や考え方を伝えたことだと思います。勤勉で、個人の生活だけでなく家族や地域、社会への貢献を重んじる姿勢です。私自身、両親から「社会や国のために働きなさい」と教えられ、それが外交官としての現在の自分につながっています。ブラジルの日系人もまた、その精神を受け継ぎ、努力を惜しまず地域社会に尽くしています。そのことに心から敬意と感謝を抱いています。
(ロドリゴ・メイカル執筆 Diário Brasil Nippou/Nippon Já)









