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希望失ったベネズエラ人ブラジルへ=選挙後に激増する移民の波

2025年8月28日

万華鏡2
8月、ブラジルで正規入国申請を求めて列をなすベネズエラ人移民ら(23日付G1サイトの記事の一部)

 ベネズエラの政治危機が深刻化する中、隣国ブラジルへの移民の流れが急増。特に昨年7月の地方選挙後、選挙結果に失望した多くのベネズエラ人が国境を越え、1日あたりの移民対応件数が150件から350件に増加。今年上半期だけで9万6199人に達した。この傾向は一過性ではなく、長期的な人道的課題となる可能性があると23日付G1など(1)(2)が報じた。

 北部ロライマ州のパカライマ市では、ブラジルの社会組織カリタス・ブラジレイラが移民支援を行っており、その対応件数は24年5月の施設開設以来、最大となっている。同年7月のベネズエラの地方選挙では、ニコラス・マドゥロ大統領率いるベネズエラ統一社会党(PSUV)が圧倒的な勝利を収め、335の市長職のうち285を制し、24の州都のうち23を占めた。政治的変化の兆しを望んでいた多くのベネズエラ人は失望し、長蛇の列を作りながら移民手続きを進め、ブラジルでの新生活に希望を託している。

 カリタスのコーディネーター、ルス・トレマリア氏は「選挙後、移民の流れが一層増加した。多くの移民が、マドゥロ政権の継続を受けてベネズエラに未来はないと感じている。ブラジルに来ればより良い生活ができると、彼らは信じている」と語った。

 同組織が運営する支援施設「パドレ・エディ」は、移民の定住手続き窓口「オペラソン・アコリーダ」の近くに位置しており、ブラジル軍の指揮のもとで移民支援が行われている。同施設ではトイレ、シャワー、ランドリー、おむつ交換台、飲料水などのサービスが提供されている。ブラジル政府は急激な移民増加に対応するための特別なプロトコルを用意しており、移民や難民の急増に対応している。

 15年から始まったベネズエラからの移民流入は、ロライマ州を主な入口とし、現在までに100万人以上のベネズエラ人が入国した。その半数以上は当地の移民受け入れ政策と定住支援に魅力を感じ、定住している。

 今年上半期の移民数は、前年同期比で5%増の9万6199人に達し、その53%にあたる5万1697人がロライマ州経由だ。カリタスの全国アドバイザー、ウェルトン・レアル氏は「移民増加は一時的なものではなく、今後も続く可能性がある」と語り、長期的な人道的課題として深刻化していることを指摘した。

 ベネズエラからの移民の一人、電気技師のモイセス・マタさん(29歳)は「仕事を失い、未来が見えない。失業率が非常に高く、選挙後には何も変わらないと確信した」と語った。彼は南伯サンタカタリーナ州に住む親戚のもとを目指している。

 主婦のデクシス・サピエンサさん(40歳)は、10代の娘2人とともにベネズエラを後にし、「選挙に投票する気にもなれなかった。今ではすべてがドル建てで、家族を養うことは不可能。政府は変わらず、希望もない」と語った。彼女は、娘たちにブラジルで教育を受けさせることを希望している。

 建設作業員のエドガル・スアレスさん(56歳)もベネズエラでの困難な生活に耐えきれず、2年前から移住を考えていたが、サンタカタリーナに住む親戚の支援を得てようやく移住を決意した。「ベネズエラでは生きるために必死だ。1日か2日の単発の仕事を繋いで生き延びた。選挙結果を見て、もう何も変わらないと確信し、絶望した。今私が一番求めているのは、ブラジルで安定した仕事を見つけ、家を持つことだ」と語った。

 移民の中には高齢者もおり、医療サービスを受けるために国境を超える人もいる。アレックス・ロドリゲスさん(70歳)は「私は白内障を患っているが、ベネズエラで治療を受けることができなかった。サンタカタリーナに住む娘は『ブラジルの方が生活の質が良い』と常々言っており、安心して治療を受け、家族と一緒に過ごせるブラジルに移ることに決めた」と語った。

 ロライマ連邦大学(UFRR)人間科学センター長のジョアン・カルロス・シルヴァ氏はベネズエラからの移民の特徴について「絶望感はここ10年間で深刻化、それは選挙結果とは関係なくより普遍的なもの」と分析。移民の多くはブラジルにすでに住む親戚の支援を受けて移住しており、移住の初期段階で来た人々が家族を呼び寄せる形になっているという。

 カラカス出身の警備員ルイス・ペレスさん(28歳)は「私たちは選挙で国が変わると思っていたが、何一つ変わらなかった。選挙後、もうどこにも行き場がない。今はブラジルに強い愛着を感じている。祖国には二度と戻りたくない」と話した。

 ルーラ大統領は昨年9月、「我々は、ブラジルにいる何千人ものベネズエラ人を尊重し、この問題に責任を持って取り組んでいかなければならない。ベネズエラが正常に戻り、人々ができるだけ早く祖国に帰れることを望んでいる」と述べ、引き続きベネズエラからの難民を受け入れる方針を示した。


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