site.title

《記者コラム》右派政治家のロックトラブル=アルゼンチン・ミレイ大統領も

2025年10月11日

ライブハウスで熱唱するミレイ大統領(Reproducao)
ライブハウスで熱唱するミレイ大統領(Reproducao)

「右翼のくせにロックなんて歌うな」―こういう風潮がある。これに対し「政治思想と音楽ジャンルを結びつけて語るべきではない」と反論する声もあるが、昨今の世間では前者の意見を支持する傾向が強い。

なぜか。それはロックという音楽が辿ってきた歴史ゆえだ。ロックは元々「保守的な親世代に反抗する音楽」というイメージの下、生まれた。60年代はヒッピー文化の中でベトナム戦争に反対し、70年代から90年代にかけてはパンクロックやオルタナティヴ・ロックというスタイルになって、社会の不公正やマイノリティへの偏見に対して声を上げてきた。

こうした経緯もあり、かつてドナルド・トランプ氏がアメリカの有名ロック歌手の曲をキャンペーンで使おうとした際、当の歌手本人が使用を許可しない声明を出して話題になった。

同様のケースは最近の日本でも起きている。欧米メディアから「極右」と評される参政党が「政治はロックだ」とのスローガンを掲げ、物議をかもした。また、同党支持者が日本のロックバンド「ブルーハーツ」の人気曲「青空」を歌った様子がネットにあがると、「生まれたところや肌や目の色で差別するなという曲を排外主義者が歌うのか」などのクレームが多数寄せられネット上で炎上騒ぎが起きている。

そして先日、南米でも起きた。アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は生粋のロック好きで、自身の著作の発表会は必ずと言っていいほどライブハウスで行い、引き連れたバンドと共にロックを歌う。世界の政治家の中でもかなり稀なことをする人物だ。

ただ今回は騒動になった。ミレイ氏がステージで歌ったのは、同国ロックの第一人者チャーリー・ガルシアの代表曲の一つ「デモリエンド・ホテレス」。この曲は同国70年代の軍事政権に対して、その時代を生きた子供の目線から作られた政権批判的な曲として有名で、80年代に自由を求めた若者に愛された曲だったのだ。

ミレイ氏は親軍政的な発言が目立ち、トランプ大統領とブラジルのボルソナロ前大統領に強い敬愛の念を抱いている。そんな彼がこの曲を歌ったことで世論の反感が高まった。ただでさえ、身内のスキャンダルが発覚し、大事な中間選挙も現時点で劣勢と報じられているのに、この一件は支持率低下の勢いに火に油を注ぎかねないものとして捉えられている。

一方、ブラジルでは政治関係者によるこの手のトラブルは起きていない。右派政治家の代表格であるボルソナロ氏からはロック以前に音楽に興味を持っている話をほとんど聞いたことがなく、そうした点も関係しているかもしれない。(陽)


《記者コラム》繰り返されるメタノール中毒=効果的な防止策は未だなし?前の記事 《記者コラム》繰り返されるメタノール中毒=効果的な防止策は未だなし?
Loading...