石油採掘、中南米のジレンマ=公正なエネルギー転換とは
第30回気候変動枠組条約締約国会議(COP30)で世界の環境保護の議論が高まる中、中南米の「公正なエネルギー転換」の現実が浮き彫りになった。ブラジルはアマゾン川河口での新たな石油掘削を承認し、30年までに世界第4位の石油生産国を目指す一方、コロンビアは化石燃料からの脱却を急ぎ、石油・石炭の新規開発を停止した。経済成長と気候目標の間で揺れる地域の現実を7日付ヴァロール紙(1)が報じた。
ルーラ大統領はアマゾンの森林伐採を大幅に減らした実績を掲げ、世界的な環境保護の旗手として自らを位置づける。だがCOP30直前に、政府が国営石油公社ペトロブラスによるアマゾン川河口での探査を承認したことは、環境保護団体を驚かせた。ルーラ氏は「ブラジルは国民の生活を向上させうる資源を手放すことはない」と発言した。
新興国が化石燃料からの脱却を模索するなか、「公正なエネルギー転換」との概念が注目を集めるが、その解釈は国により異なる。多くの途上国は、米国など主要産油国が依然として増産を続ける中、自国だけが先行して生産を止めることに慎重だ。米国シンクタンクの専門家アルフォンソ・ブランコ氏は「他国が資源を収益化している間に自国が生産を止めれば、発展の機会を逃すことになる」と指摘する。
ブラジルにとっての「公正なエネルギー転換」とは、石油・ガス生産を維持しつつ、その利益を社会支出やグリーン投資に回すことだ。アレシャンドレ・シルヴェイラ鉱山動力相は、ブラジルがバイオ燃料や再生可能エネルギーで世界をリードしていると主張し、「ブラジルは世界のエネルギー転換を主導している」と述べる。
一方、コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領は、石炭と石油を「人類を滅ぼす可能性のある資源」と批判し、新規探査の全面停止や課税強化を実施した。だが、国内生産の減少によりガス輸入が増加し、環境負荷がむしろ高まるという逆説的状況も生じている。中南米ではアルゼンチン、メキシコ、ベネズエラなどが依然として石油増産を進めており、脱炭素を主導する国は少ない。COP30を目前に、地域全体が経済発展と気候対策の板挟みにある。
ブラジルのジレンマを象徴するのが、アマゾン川河口での石油開発をめぐる論争だ。5日付インフォ・マネー(2)によると、ルーラ政権は温室効果ガス排出削減と森林保全を掲げてきたが、同時に石油探査を容認したことで、国際的な批判を浴びている。ルーラ氏は当初、ブラジルを「気候行動の模範国」として再び国際社会に位置付けることを目標に掲げていた。森林破壊の抑止、温室効果ガス排出の削減、気候危機への国際的資金調達などを柱に据え、COP30開催地をアマゾンとすることで、ブラジル「復帰」を印象づけようとした。
だが、ルーラ氏の環境実績は必ずしも一枚岩ではない。ブラジルは森林伐採を大幅に減らし、温室効果ガス排出も24年に前年比12%減となった。森林伐採は11年ぶりの低水準に落ち込み、アマゾン保護区の拡大も進んだが、アマゾン沖の石油掘削を認めたことで「二枚舌」との批判が強まった。130を超える環境団体で構成される非営利活動団体「気候観測所」のマルシオ・アストリーニ事務局長は「最悪のタイミングで最悪のメッセージを世界に送った」と指摘する。
マリーナ・シルヴァ環境気候変動相は、今回の承認はあくまで「探査の許可」であり、実際の掘削は数年先の話だと説明する。「矛盾があることは否定しないが、それは世界中で起きている現実だ」とし、ブラジルの方針は脱炭素の長期的過程と両立しうると強調した。
一方で、環境団体は原油流出による生態系被害を懸念し、同計画の撤回を求める。ブラジル政府は、石油収入がエネルギー転換や貧困削減の原資になると主張するが、批判はやまない。アマゾン流域は炭素吸収で重要な役割を担っており、科学者たちは森林が「回復不能な転換点」に近づいていると警告する。
ブラジルの石油開発権はすでに20を超える海域で入札され、政府はさらに100以上のブロックの販売を検討している。アストリーニ氏は「ブラジルは危険な道を歩んでおり、その理由を世界に説明しなければならない」と警告した。経済発展のための資源活用と、地球規模の脱炭素の要請。二つの現実のはざまで中南米諸国は今、難しい選択を迫られている。









