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ぶらじる歌壇=46=小濃芳子撰

2025年11月20日

サンパウロ 梅崎嘉明

体操をする吾に近く来しモレナ親しげに身の上話をなせり

運動をしろと言わるるも私は身重で自由がききません

そんなには見えませんよまだ若いのですから元気を出しな

医者からは体内に五人の児かいると告げられ孤りしよげているのょ

誤診では無いのですかどちらから見ても貴女は妊婦ではありませんよ

またの日を見てくださいと別れしがその後の彼女に逢うことはなし

サンパウロ 山岡秋雄

長旅で不在の妻の声色が厨の隅に聞こえし気がす

一切れのピザの昼食摂る店が八十路のわれを社会と繋ぐ

携帯に両手の拇指でキーを打つ歩みながらの若者の技

移住者の高齢婦人箏を弾き千年前の絵巻偲ばす

飛行機の旅の道連れ父親と幼児の会話微笑み誘う

植林のモギノ林の中に棲む姉の余生は自然と共に

樹林から蝉の鳴く音の沸き起こり落雷の後雨の降り出す

五十年ぶりに再会したる女昔貴方を好きだったよと

海岸へ山脈降るバスの旅飛機の降下と似たる感覚

草原の緑の中に赤茶けて土偶の如き蟻塚の群れ

サンパウロ 橋本孝子

いただきしレモン皮をすりおろし厨にいっぱい香り広がる

病院の待合室のパイネルの我が番号を見つめ日は暮れ

暑さ来て肌を現す若者の装い軽く刺青あまた

ジャカランダ今年も咲いた駅前に灰色空に紫映えて

グワルーリョス 長井エミ子

立てし指からまる風も秋の色夢でありたし一生と思う

手紙にてお話しましょうか我が友よ秋深々と限界集落

きのこ狩り天延び延びと秋の空いまもありなんあの山あの頃

高齢は何のなぐさめにもならず真紅のバラの遠きはなやぎ

あれこれと思考打ち切りねむらむとげに一夜とう長き物かな

イペの花日毎ふくらみ輝きて独立記念日ブラジルは春

この街の一号店なりマキドナルドイペの花咲く大木のあり

ふる里は地震豪雨に台風にグワルーリョスの満月優し

月日とう風に吹かれて転がりて外国人の増えゆく日本

国恋うる心消え去り幾年を夕やけ空は涙含めり

サンパウロ 木村衛

踏みしめる芝生の中にひっそりと色鮮やかなタンポポの花

鮮やかなダリアの大輪めでつつも小さき梅の花に惹かれる

近寄れば警告発す親鳥に遠廻りするマレットゴルフ

振り下すタッコに込めた思いなど知らず飛びゆく球は彼方へ

木木多きクルーベの道歩みつつ今日のひと日の無事を感謝す

サンパウロ 安中攻

東洋街鳥居の下で待ち合せメール・ケータイなき我時代

指おりて数字を追えば半世紀ニテロイと言う映画館あり

白蘭を好みし人を偲びつつ追肥ほどこし墓参日を待つ

犬連れの散歩する人微笑みが後々までも頭よぎれり

目障りにならぬ程度がふさわしい我生涯はかくありたしや

サンジョゼ・ドス・カンポス 藤島一雄

強烈な日差しの季節近づきて新緑新芽が山野彩る

大相撲ロンドン公演海外に相撲の魅力をPRせり

幕内の力士の実力拮抗し群雄割拠の様相呈す

安青錦ウクライナより入門し史上最速新三役に

朝乃山人生思わす相撲歴幕内復帰へエールを送る

高市さん激烈な戦い勝ち抜きて女性で初の総理大臣

日本の舵取り担う高市さん課題山積厳しき舟出

春たけなわ野辺の草花咲き乱れ鳥もさえずり交わし群舞す

利便性ばかり求める現代の科学の発展日進月歩

大リーグ投打が織りなす二刀流大谷翔平稀有な逸材

在日の次女とネットで通話する画像対面臨場感あり

日報紙発行日数縮小す持続措置なら読者受容す

愉しみはひそやかなるをモットーに生き来てはやに卒寿は過ぎぬ

大戦下学びし友の訃報聞く身じまいの日は避けて通れぬ


◆ 名歌から学ぶ短歌の真髄 ◆

短歌史に残る有名歌人の歌から心髄を学ぶコーナーです。良い歌を沢山読み触れる事でよりよい作歌に繋がるはず。

たましいの澄みとおるまで白鳥の舞うを見ていて去りなむとする

岡野 弘彦

夕暮れの静かな雨は夜明けに上がり、冷たい空気が流れ込みます。

気持ちの良い朝です。

ふと見上げる空に、山の向こうから白鳥が数羽、群れをなしてとんでおります。

寒い地方から、冬を越すためとんでくるのです。

山にある湖の岸辺をめざしてたどり着くまであたかも舞うように飛んでおります。

この美しい情景に巡り合った作者は、しばらくたち去りがたく見つめていたでしょう。

人は、厳しい社会をいき抜くために全力ををつかいます。

そのために、体も心も疲れるのです。

そんなとき、ほっと休まるものが必要になります。

そこで、心の底にあり、普段は気付かなっかた魂に巡り合います。

人はみんな、優しく美しい気持ちをもっております。

疲れ果て、弱くなった心が元気になることは珍しく、人々の追い求めるものとおもいます。

この歌は読んでその情景と魂の存在をを示しており、厳しい社会にひとつの喜びをあたえました。

時として、透き通る魂に会いたいものです。

みんなから愛される優しく力強いうたと思います。

《備考》

岡野 弘彦

大正13年 三重県に生まれる。

国学院大学に学ぶ。折口信夫の家にあって、薫陶を受ける

昭和42年、冬の家、現代歌人賞

昭和53年、海のまほろば、迢空賞

昭和62年、天の鶴群、読売文学賞、受賞

平成2年、異類会消息

平成3年、飛天、出版


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