COP30=日系人築いた森林農法に手応え=JICA副理事長トメアスー視察=日伯の環境協力が加速
【ベレン発】COP30(国連気候変動枠組条約第30回締約国会議)に参加するため北伯パラー州都ベレンを訪れていたJICA(国際協力機構)副理事長兼最高サステナビリティ責任者の宮崎桂氏は、本紙取材に「今回初めてトメアスー式森林農法(以下(SAFTA=Sistema Agroflorestal de Tomé-Açu))を視察し、その取り組みが非常によく整理され、理論と実践の両面が高い水準で結びついていることに驚いた」と語り、劣化牧野改良事業やMORIプロジェクト、MIDORIイニシアチブを通して気候変動、環境保全に注力していく姿勢を強調した。
ベレンから南西に約187キロ離れたトメアスーは、1929年に最初の日本人アマゾン移民が到着した場所で、4年後に移住100周年を迎える。そこで長年SAFTA普及に尽力してきた日系農家・小長野道則氏が、農業技術だけでなく「人材育成と持続的な開発の大切さ」を繰り返し語っていたことが印象に残ったと宮崎氏は語る。「JICAの実施する交通や上下水道などのインフラ整備も結果として、そこで生活する人々の生活が豊かになっていくことを目指している。トメアスーで感じた現場の力は、その理念を改めて確認させてくれ、感動した」と振り返った。
トメアスー訪問日にはブラジル農務大臣も同地を訪問しており、トメアスー総合農業協同組合(CAMTA)乙幡敬一組合長の案内のもと、同ジュース工場と鈴木エルネスト氏の農場を共に視察したという。これはブラジル政府内でもSAFTAへの関心が高まっており、「カミーニョ・ヴェルジ(緑の道)ブラジル」プログラムなど国を挙げた環境政策とも結びつく可能性を示す。宮崎氏は「日本人の努力がブラジルの環境政策にも貢献し得るという事実に、日本人としての誇りを感じた」と語り、両国の協力が新たな段階に入ろうとしているとの認識を示した。
COP30では、JICAが当地で実施、または新たに開始する事業が発表された。その一つは、「日伯グリーン・パートナーシップ・イニシアチブ」に基づく劣化牧野への対応だ。セラード地域において、土壌の生産能力が低下したした農地、牧草地を再生し、森林の新たな伐採を抑制、さらに気候変動への強靭性を高めることで、持続可能な農業へ転換する計画で、日本の技術力とブラジルの潜在力を融合させる試みだ。COP30のサイドイベントの場で、ブラジル農務大臣、農牧研究公社(EMBRAPA)総裁とJICA宮崎副理事長との間で、事業実施を確認する覚書が署名され、同イベントではブラジル側から新規事業に対する高い期待が表明されていた。
もう一つは森林伐採の抑制を目的とした「MORIプロジェクト」だ。JAXA(宇宙航空研究開発機構)及びAIST(産業技術総合研究所)、IBAMA(ブラジル環境・再生可能天然資源院)と連携し、先進的なレーダー衛星とAI技術によってアマゾンの違法森林伐採を予測・検知・監視・管理する。これは森林保全分野におけるJICAの代表的な取り組みとされ、アジアや中南米、アフリカなど世界各地でも展開されている。
さらに、中南米・カリブ地域全体を対象とする海外投融資の取り組み『MIDORIイニシアチブ』もCOP30で発表された。気候変動対策や生物多様性保全など、環境分野への資金供給を強化する仕組みであり、環境対策で同じ方向性を持つ民間企業の資金を呼び込むことを前提とした点が特徴だ。
「アマゾン熱帯雨林は世界有数の二酸化炭素吸収源である。JICAの取り組みは、地球規模の課題への対応やブラジルへの貢献に加え、日本のエネルギー安全保障や食料安全保障にも資する。こうしたグローバルな課題解決と日伯双方の利益につながる協力を、今後も推進していきたい」と述べた。
宮崎氏は続ける。
「JICAが活動する国々の中でも、民間部門との協働が最も進展しているのはブラジルです。米州開発銀行グループのイノベーション・ラボであるIDB-Labと連携したスタートアップ進出支援プロジェクト『TSUBASA』も、その具体例の一つだ。ブラジルには既に多くの日本企業が進出しており、より幅広い民間企業にJICAの取り組みを認識してもらい、協働を一層促進していきたい」
トメアスー発の森林農法から最先端の衛星監視技術、さらには民間との連携拡大まで、幅広い協力が動き始めている。COP30を機に、日伯双方が強みを持ち寄る形で環境、気候変動対策の協力が一段と深化するのか。その行方が注目される。(武田エリアス真由子記者)








