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COP30、灯台下暗しの現実=会場から5㌔に住む市民の危機

2025年11月22日

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パラー州ベレン市中心部に位置するヴィラ・ダ・バルカ地区は、100年以上の歴史を持つ高床式木造住宅の密集地だ。約600戸に1千世帯以上が居住するが、洪水や大雨の際の住宅倒壊リスクが高い。第30回気候変動枠組条約締約国会議(COP30)の会場からわずか5キロの距離だが、こうした国内都市部の脆弱地域の問題は〝灯台下暗し〟で、環境危機が社会・住宅問題と直結する現実が浮き彫りになっていると19日付アジェンシア・ブラジル(1)が報じた。

ヴィラ・ダ・バルカ地区は20世紀初頭の移住増加期に河畔住民によって占拠され、コミュニティが形成された。高潮に備えて杭の上に建てられた木造住宅が並び、中南米最大級の高床式住宅コミュニティの一つだ。

そこに約60年間暮らす最古参クレオニセ・ヴェラ・クルスさん(77歳)は、「風が吹くと家が揺れる。隣を人が通るだけでも家がグラグラする」と述べ、高潮や大雨時の不安を語った。「床や壁の板の継ぎ目に隙間があり、雨が降ると家の中に水が浸入する」と説明した。

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ヴィラ・ダ・バルカに住むクレオニセさん(Foto: Rêgo/Agência Brasil)

11月14日未明には同地区の家が1軒倒壊。4人が居住しており、そのうち1人は子ども、1人は障害者だったが、木の軋む音を聞き、崩壊の危険を察知して無傷で避難した。倒壊した家屋に加え、近隣住民宅にも損傷が生じた。この惨事は、COP30で気候対策が議論されていた期間に発生し、環境危機が単なる自然現象ではなく、住宅・社会危機と密接に結びつくことを示した。

ヴィラ・ダ・バルカ住民協会(AMVB)のジェルソン・シケイラ会長は、「環境を守る必要はあるが、木の茂みの下に住む人々への保護や配慮はほとんど議論されない。地域には何千人もの市民がいるが、基本的な衛生設備がないか、不十分であり、水道の供給も脆弱だ」と述べた。「COP30での議論は環境政策やエネルギー移行、資金調達が中心だが、住居への配慮は十分ではない。環境問題には適切な住居の確保も含まれるべきではないのか」と訴えた。

非政府組織ハビタット・フォー・ヒューマニティ・ブラジルが、国内129都市の洪水・地質リスク地域と国勢調査データを照合した調査によると、リスク地域に居住する住民の66・58%が黒人だ。37・37%の世帯は女性が世帯主で、平均収入は2127レ(約6万2千円)。これは分析対象都市全体の平均収入の約55%に相当する。

リスク地域の住宅の20・29%には下水設備がなく、2・41%は適切なごみ収集もない。ハビタットのマネージャー、ラケル・ルデルミル氏は「リスク地域の住民には読み書きができない人も一定の割合を占める」と述べ、環境的人種差別の現実を指摘した。

マリア・クーニャさんはこの現状の体現者だ。シングルマザーで2人の子どもがおり、うち1人は障害者だ。現在失業中で、家計は障害児の年金とわずかな家庭清掃の仕事に依存するが、1回の清掃で得られる報酬は最大50レ(約1450円)にとどまる。

マリアさんは、子どものケアを支える公的サービスの不足を痛感している。「この賃金では私と下の子の家を整えることはできない。固定の仕事があればいいけれど、ホテルの清掃員に応募したがうまくいかなかった」と述べ、生活の困難を語った。

COP30会場から5キロの距離にあるが、住民の多くは会議に関心を示していない。地域住民にとって、目に見えて影響があるのは観光地区の改修工事や街路整備など、日常生活に直結する変化であり、会議での政策議論は遠い問題に映る。

一方、住民の生活改善に直結するインフラ整備も進められている。7月下旬、州の水道・下水事業を担当するアグアス・ド・パラ社が給水システムおよび下水収集・処理システムの整備工事を開始。総費用は1500万レに上る。給水の第一段階は完了し、木造住宅の各家庭に個別水道メーターが設置された。請求はまだ行われていないが、低所得世帯向けに通常料金より低く設定された「社会的料金」として66・42レアルが想定されている。下水整備は26年4月までに完了する予定だ。

コミュニティの尊厳を守る闘いは、住民がこの地に居続ける権利の保証と密接に関連している。シケイラ氏は「連邦政府は、住民が高床式住宅に住み続けることをいつまで黙認するのか。我々は、生活に必要なインフラを備えた住宅団地の整備を望む」と述べた。

ハビタットは、気候危機と住宅危機の関連性を指摘。同組織のグローバルネットワークによる報告書では、各国が自主的に提出した温室効果ガス削減目標(NDC)のうち、都市部やスラム、コミュニティの課題に触れ、住宅やインフラ被害への対応を含む計画・資金調達に言及するのはわずか8%にとどまる。

ルデルミル氏は「我々はこれらのコミュニティの居住権を支持する。ただし、安全性、居住性、適応力の向上は不可欠だ。多くの場合、これらコミュニティは誤った解決策と見なされる。気候適応政策の中には、コミュニティ全体の移転を正当化するものもあり、それは公平ではない」と述べた。


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