エンブラエル=ドローン撃墜機を売り込み=ロシアに備える欧州市場へ
ブラジルのエンブラエル社が、軽攻撃機スーパートゥカーノを「低コストのドローン迎撃手段」として欧州市場に売り込んでいる。近年、欧州上空では正体不明の無人機の侵入が相次ぎ、高価な戦闘機で迎撃することの非効率さを浮き彫りにする中、新たな防空の選択肢として注目されていると13日付フォーリャ紙など(1)(2)が報じた。
軽攻撃機市場で20年にわたり優位を保ってきたエンブラエル社は、A―29型スーパートゥカーノを現代的任務に対応させ、具体的には無人機迎撃能力を追加したと発表した。特にロシアとの戦争を懸念する欧州諸国を主な対象とする。今週、アラブ首長国連邦で開催されたドバイ・エアショーで、同社は同機に無人機を効果的かつ低コストで撃墜可能な機能を搭載したと明らかにした。
スーパートゥカーノの機体単価は発注規模や付属装備により変動するが、一般的な市場価格は1千万ドル(約15億5千万円)。数字だけ見れば安くはないが、同機が注目される理由は運用コストの圧倒的な低さにある。最新鋭戦闘機F―35型機の運用コストが1時間あたり約4万ドル(約622万円)であるのに対し、スーパートゥカーノは約1500ドル(約23万円)にとどまり、費用差は約30倍に及ぶ。
この「費用対効果」の差が、ドローン迎撃という新たな戦場環境で決定的な意味を持つ。25年9月、ポーランド領空にドローンが侵入した際、オランダ空軍の第5世代F―35型戦闘機が非武装の標的ドローンをAIM―9Xミサイルで撃墜した。使用されたAIM―9Xは1発あたり最大50万ドル(約7782万円)。一方、撃墜されたゲルベラ型ドローンの価格は約1万ドル(約155万円)程度。迎撃に要した費用は、標的の50倍を超えていた。
これに比べ、スーパートゥカーノは低コストの装備で同様の任務を果たせる。同機は翼内に12・7ミリ口径機関銃2丁を搭載し、レーザー誘導ロケットの運用も可能だ。たとえば、英BAEシステムズ製の「APKWS―2」は、安価な無誘導ロケットをレーザー誘導弾に転換するキットで、1発あたりわずか2万ドル(約311万円)強。高価なミサイルに比べ、はるかに経済的だ。
もっともスーパートゥカーノにも制約はある。ターボプロップ機であるため、超音速戦闘機と比べて離陸から戦域到達までに時間を要するほか、強力な機上レーダーを搭載しておらず、多数のドローンが飛来する空域では他機による監視や目標情報の共有が不可欠となる。
この課題に対し、エンブラエル社は、NATO加盟国ポルトガル向け仕様として解決策を提示した。同機を最新鋭の光学・赤外線センサーで装備し、NATO規格の暗号通信システム「リンク16」を介して外部データを受信できるようにした。これにより、他機や地上レーダーとの連携によるドローン迎撃が可能となった。
同社の発表は、22年のロシア侵攻に端を発するウクライナ戦争で顕在化した「ドローン問題」への現実的な解決策を象徴している。大量生産された無人航空機が戦場の様相を変えつつあるなか、NATO諸国は30年までのモスクワとの潜在的衝突を想定し、より安価で持続可能な防空手段を模索している。
エンブラエル社にとって、ここには明確なニッチ市場が形成されつつある。スーパートゥカーノは、人工知能(AI)制御の先行ドローンによる「空中地雷原」や、電磁的対抗手段、防空砲兵、有人機などから成る多層防護網の一翼を担う現実的かつ費用効率の高い選択肢として位置づけられている。









