《記者コラム》なぜルーラは女性判事を避けるのか

そろそろルーラ大統領の口から、ローザ・ウェベル氏に替わる次期最高裁判事の指名が行われる。世間では大統領が後任に女性を選びそうにないことが意外な驚きを持って見られている。
これはルーラ氏にとって損な話でしかない。左派として予てから女性や黒人からの支持率が高いルーラ氏は、少数派の人たちに対して優しい政治を求められる傾向がある。
それは人事に関しても同様で、支持者からの少数派の代表を権力ある地位に据えることを願う声は大きく、その傾向はフェミニストで有名なジャンジャ夫人と再婚してからさらに強まっているように思う。
それにもかかわらず、ルーラ氏は次期最高裁候補に女性を指名していない。ローザ氏が退官すると、最高裁内の女性がカルメン・ルシア判事のみになるのにだ。
このルーラ氏の動きはコラム子にはかなり不可思議だった。自身の大統領一期目にはカルメン判事を選び、さらに黒人のジョアキン・バルボーザ氏を選ぶような進歩的な姿勢を見せていたルーラ氏が、社会的要望の高さを半ば無視して、前回選んだクリスチアーノ・ザニン氏に続いて男性を選ぼうとしている。正直理解できなかった。
だが、「もしかしてこの件が尾を引いているのか」と思えることがある。それは2018年4月の最高裁審理のことだ。これはラヴァ・ジャット作戦の裁判で2審有罪となったルーラ氏に人身保護令が適用されるか否かを問うものだった。
この審理の直前に当時の陸軍司令官だったエドゥアルド・ヴィラス・ボアス氏が、「仮にルーラ氏を実刑に処さないなら軍は黙ってはいない」との内容のツイートを軍の公式アカウントで行った。
後の報道では、このとき長官だったカルメン判事の動揺ぶりはかなりのものだったという。加えてローザ判事も、普段は憲法の定める「4審で実刑執行」の支持者だったにもかかわらず、この日の審理に限っては、この数年前に最高裁が判例とした「2審で実刑」に意見を翻した。この1票で投票結果が5対6となり、ルーラ氏は実刑となった。
1年半後の2019年10月、最高裁は再び「実刑はどの段階で行うべきか」の審理を行った。ローザ判事はこの時、「4審後」に票を投じ、その結果、6対5でルーラ氏の釈放につながっていった。
もしかしたら、ルーラ氏の中には「あの時、女性判事さえしっかりしてくれてさえいたら」との恨みにも似た気持ちがあるのではないか。同氏が女性判事を避ける理由はそれくらいしか思いつかない。(陽)