《記者コラム》為政者らが語るべき時=トランプ発言等に思う

米国のトランプ大統領が9日、全てのブラジル産品に50%の関税をかけると発表し、貿易だけに止まらず、両国間に大きな波紋を生じさせている。トランプ氏はその後もカナダやEUなどへの関税引き上げを発表しているが、現在までに関税引き上げが発表された20超の国の内、50%という高関税はブラジルだけだ。
16日付のファロル・ダ・バイア(1)によると、トランプ氏は15日もブラジルへの50%関税について訊かれ、「私にはその権限があるから関税を引き上げている。他者にはできない」「米国に金が入ってきて欲しいから関税を引き上げるのだ」と語ったという。
また、トランプ氏は検察庁がボルソナロ前大統領に有罪判決を求める申し立てを行ったことを受け、前大統領のことを再び擁護し、「ボルソナロ大統領はいい人だ。彼は不誠実な人ではない。伯国民を愛し、伯国民のために懸命に戦った」「彼の告発は魔女狩りであり、あってはならないことだと信じている」と述べたという。
9日時点のトランプ氏は、最高裁での裁判はブラジルの政治に悪影響を及ぼし、それが関税引き上げの決定につながったとし、「裁判を止めれば関税引き上げも止める」と語ったとされており、専門家からは、ブラジル国内の問題が国際貿易政策を左右すべきではないとの声が出ている。(2)
一方、ボルソナロ氏は15日、「トランプ氏が19年に鋼鉄関税引き上げを試みた時には私が交渉した」「テロリストと共謀していたイラン高官の就任式に副大統領を派遣するような大統領に何を期待できる? 世界最悪の独裁政権と同盟を組むのか? BRICSは小独裁者の群れで、世界中から戦争犯罪者が集まっている」とし、「ブラジルは米国の価値観から離れ、独裁政権とテロリストに近づいている」とも述べた。(3)
また、「私が関税を課し、それを称賛しているのか? いいや。ブラジルには解決に至る道があり、トランプ氏は何を望んでいるかを示している」「旅券を返してくれれば話してもいいが、大統領はルーラで、私ではない」と語ったともいう。
だが、一連の言動を見ると、一国の長たる者が国益や国民の利益よりも個人的な好みや望みを優先しても良いのか、と考えざるを得ない。
トランプ氏の移民政策は、移民が担ってきた仕事の担い手不足を招き、収穫ができず、畑の農作物が朽ちていくのを見た農家が陳情した結果、農業に従事する移民の入国や滞在は認めると言い出した。大学批判や援助打ち切りは、様々な考えを持つ人達が論を交わしたりすることで築いてきた学術国家の後退や崩壊、頭脳流出を招きかねない状況を生む。
また、様々な国への高関税は、米国民が必要としている品の供給不足や失業、インフレ、経済後退などを招くと見られており、課税相手国だけでなく、米国民を困窮させる。
ボルソナロ氏の裁判やブラジル最高裁への干渉とそれも絡んだ関税引き上げの背景には休職中の息子のエドゥアルド下議などの働きかけがあるとされ、ブラジル国民への裏切り行為との批判の声も出ている。(4)(5)(6)
トランプ氏が貿易黒字を記録している国にまで高関税を課す判断をしたことは、米国で裁判沙汰になろうとしている。(7)(8)
為政者や経営者の言動は国や企業の安泰や将来を揺るがすし、一度発した言葉は後には戻らないから、心身の健康や熟慮が必要だ。時や人を見極めることはリーダーの資質の一つだし、上に立つ者は自分が治めるべき民や部下、その家族を本当に愛さなければならないと改めて思わされる出来事が続いている。(み)